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下級巫女です!!  作者: 池中織奈


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暗殺者に狙われているようです。⑦



 その日、その裏組織内は少しだけばたついていた。

 それは一つの依頼――トリツィアへの殺害依頼が上手くいかなかったからである。

 ただ殺すことが出来なかったのならばそれだけだが、今回は暗殺者たちの行方が分からなくなった。

 

 大神殿ではトリツィアが狙われたことは騒ぎになっていなかった。その裏組織の刺客たちが殺されたという痕跡も見つからない。ならば、トリツィアを狙った彼らがどこにいったのか、組織側でもわからなかった。


 失敗したと言う報告もなく、五人とも消えた。

 そのような不可解なことは本来ならば起こり得ないことのはずだった。


 ――裏社会というのは、縦社会である。

 その世界では恐怖心というのを叩き込まれる。逆らうこと、裏切ることをすれば死が待っているものだ。そういうものをきちんと守らなければ短命になるから。


 ――そういう恐怖で縛っているはずの者たちがいなくなった。

 もしかしたら逃亡したのではという疑惑もあり、彼らは少しだけ混乱していた。

 なぜなら対象はただの下級巫女である。その大神殿の中でそれなりに特別視されているが、それだけだったはずである。そもそもどれだけその大神殿内で少し特別視されていようとも、下級巫女で、ただの平民。

 身分のある人を怒らせたのが悪い。だからちょっとした同情はあっても、その組織は依頼を引き受けたわけだ。





「……連絡もなしに消えるとは、何を考えているんだ」


 恐怖で縛っているはずの、構成員が逃げる。

 それは考えにくいことだった。非常事態である。



「逃げたではなく、もしかしたら殺されているか、捕らえられている可能性もあるだろう」

「……いや、流石にそれはこちらでも感知できるのではないか? 人を殺しているにしても、捕らえているにしても何かしらの痕跡が残るはずだ」



 殺した人物を処理するにしても、襲い掛かってきた人物を捕らえておくにしてもなんらかの変化が大神殿にはあるはずである。その痕跡が残らないことはない。

 ――なので、逃げたのではないかという方がしっくりはくる。



 ……しかし、ただの下級巫女を狙っていてそういう事態になる意味は分からなかった。



 トリツィアのことを狙うのは、継続する意向で進んでいる。なぜならトリツィアへの殺害依頼に関しては、この国でも権力を持つものからの依頼だからである。そういうお金を持つ権力者というのは、裏組織にとってはこれから先の良い顧客になるのである。

 そういうわけで、依頼をきちんと達成しておきたいと思っている様子だ。



 ……手を出したものがどういう存在なのか、依頼をしたものも、組織のものたちも理解は全くできないのである。

 この世には、手を出したら大変なしっぺ返しを食らう存在がいることを彼らは分かっていないのだ。



 自分たちの力を過信しているからこそ、下級巫女一人をどうにもできないはずがないと思っている。

 トリツィアのことを下に見ているからこそ、簡単に殺せるはずだと思い込んでいる。

 他でもない自分たちなら、トリツィア如き、どうにか出来ると思っているから。

 ……無知とは罪である。知らないからと言って、手を出してはいけないものに手を出してしまったら大変なことになるというのを、彼らは身をもって知ることになる。




 突然、ばたついているその組織に大きな音が響いた。何かが破壊されるような、そんな音。

 どこかからの襲撃だろうかと疑うものであり、彼らは戦闘態勢に入った。


 しかしこの隠されたアジトをどこの誰が襲撃してきたのか、彼らには見当もつかない。そもそもこんなに真昼間から、こっそり侵入するでもなく、これだけ大きな音を立ててやってくるなんて普通ならありえない。

 だからこそ、もしかしたら人ではなく魔物だろうか――という思考もめぐる。







「た、大変です!! 殺害対象の少女が、攻めてきました」

「はっ?」



 だからこそ、その意味の分からない報告を受けたものは理解が出来なかった。


 


「な、なにを言っている? どこかの組織とかではないのか?」

「違います!! あの下級巫女と、あとなんかよく分からない数名で色々壊して回ってます!」

「は?」

「止めようとしたら全員ぶっ飛ばされました」

「は?」


 ……何から何まで報告を受けた男は分からなかった。

 大神殿で大切に守られている、聖なる力を持つ巫女。力の弱い平民の下級巫女。それが裏組織なんてものに狙われれば、待っているのは死しかない。

 ……なのに、裏組織のアジトに攻め込んでくる。

 そんな下級巫女が世の中にいるはずがない……という常識のはざまで彼らは混乱に陥っている。





「あとなんか犬が」

「犬……?」

「凄く凶暴な犬が、巨大化して襲い掛かってきてなすすべもなく……あんな魔物か何かを従えているなんて!!」

「魔物を従えている?」

「あと一緒に居る騎士もおかしいです。襲い掛かっても倒れません」

「……騎士か」

「はい。一番やばいのはあの殺害対象ですが。毒もきかなくて……あの下級巫女が何かしているのか、あらゆるものがきかないので力づくでどうにかするしかないのですが、かないません」



 ……青ざめたまま、そんな報告がなされるのだった。




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