暗殺者に狙われているようです。⑥
「さてと、行こうか」
トリツィアは楽しそうに笑う。
ちなみに時刻は昼間。昼間からお出かけをしているのは、夜はぐっすり眠りたいからである。
裏組織を潰しに行くのを昼間から向かおうとしているあたり、本当にマイペースである。
「トリツィア、どこにあるかは分かっているのか?」
「うん。一応情報は集めてもらったから」
トリツィアには味方が結構多い。女神様も、精霊も沢山いる。それに巫女姫たや『ウテナ』の面々だっている。
トリツィアはそういう情報網を持ち合わせている。
例えばそういう情報を手に入れられなかったとしても、トリツィアはどうにかしてその裏組織を潰すことだろう。それだけの力がトリツィアにはある。
――そうしてトリツィアたち一行は、まるで散歩にでも出かける様子でその裏組織の本拠地へと向かう。
目立たないように人目につかない場所を移動していく。
街を通らなくても特に問題はないので、軽い足取りで彼らは向かっていった。
そして辿り着いたのは、森である。
裏組織の本拠地というのは、街中にある場合もあれば、こうして人目につかない場所にある場合もある。
今回、トリツィアのことを狙った裏組織は支部に関しては依頼主から接触しやすい場所にあるものの、本部はこうして人があまり寄り付かないエリアにあるようだ。
こういう森の中というのは自然の要塞ともいえる。
人の手が入っていない場所は危険なもので溢れている。それこそ魔物だったり、毒を持つ植物だったり。だからこそわざわざそういう危険な場所に足を踏み入れようとするものは居ない。
「トリツィア、本拠地は近いのか?」
「奥まったところにあるみたい。そして分かりにくいように偽装工作もされているみたい。それにわざわざ魔法も使ってるっぽい」
トリツィアはオノファノの問いかけにそう答える。
「別に暗殺業をやろうが、本人たちが決めたことだけど、そういう力があるならもっと人のために使えばいいのにね。あ、でも暗殺もある意味誰かのためにはなっているのかな? 正当化するつもりはないけど。ひとまず私の睡眠をもう妨害してこないようにしておかないと!!」
トリツィアはあくまで睡眠妨害されたことが一番嫌だったのである。そんな風にマイペースなトリツィアを見ていると、シャルジュは全く負ける気がしないなぁなどと思っている。
こんなに『ウテナ』の面々は、戦闘が出来る複数名ついてきている。トリツィアとオノファノの足手まといにならない程度の者が選ばれた。
(それにしてもお姉さんって本当におかしい。これで下級巫女として生きているなんてもったいないなって思うけど、お姉さんはこの生き方が好きなんだろうなぁ。それにしても暗殺者たちは本当に見る目がないよね。確かにお姉さんって見た目は可愛い女の子でしかないけど、凄く怖いのに)
貴族からも依頼される裏組織なんて本来ならば、敵対したくない存在である。そういう組織に狙われればまず命が失われるのは間違いない。しかしトリツィアをよく知っている身からしてみると、シャルジュはご愁傷様としか言いようがなかった。
「なんだか魔力を自然に逆らう感じでいじってそう。環境に悪いからそのあたりも止めさせた方がいいね」
森に入ってすぐ、トリツィアはそんなことを言う。
自然の中で生きる精霊たちとも関わりが深いトリツィアは、そういう森の中を巡っている魔力についてもすぐに感じ取れたようだ。
そういう風に自然を流れる力を人の手でどうにかしようとするのはある意味危険な行為である。
――精霊たちと、その土地に流れる力は関わりが深い。
それが人の手で身勝手にいじられれば、逆流したりもするのである。
「あれだね、自分たちなら問題ないとかそういう風に思っていじってそう。私でもそういう無理やりいじるのしたくないのに」
「トリツィアでも嫌がることやってるのか」
「ちょっと力がいるからね。うまいぐらいに整えておかないと、自然環境とかめちゃくちゃになってしまうと思う。だからこそそういうのはしないようにって管理されているはずなのに。下手に力があるって思いこんでいる人たちって困るなぁ」
トリツィアとオノファノはそんな言葉を交わしている。
あまりにもいじりすぎると、その分大変なことになるというのは歴史が物語っている。聖職者が行うような土地の浄化ならともかく、それ以外に好き勝手にいじってしまえば大惨事につながることもある。
しかしこの場所はその裏組織の者たちが何らかの形でいじっているため、なかなか危ない状況だった。
「お姉さん、それって結構やばいの?」
「やばいと思う。ここって神気は漂ってないけど、魔力は結構漂っている空間だから。そういうこの場を流れる力ってこの場で暮らす生物や植物たち全体に関わるものだからね。それが変な感じになったらこの場が大変なことになりそう。そう考えると今、このタイミングで来れたの良かったかも」
シャルジュが不安そうな顔で問いかければ、トリツィアはそんなことを言ってにっこりと笑った。




