暗殺者に狙われているようです。④
「本当にはた迷惑」
そんなことを言いながら面倒そうにつかまえた暗殺者たちのことを見るトリツィア。
五人とも仲良く捕まった暗殺者たちは大変混乱している。
下級巫女。神殿騎士。ペット。
そんな普通ならば五人いれば問題がない状況。だけれどもその二人と一匹を前に彼らはなすすべもなかった。
――自分たちが何に手を出してしまったのか、彼らには理解が出来ない。
トリツィアはただの下級巫女にしか見えない。だというのに背後を取られた。
オノファノはただの年若い神殿騎士にしか見えない。だというのに簡単に暗殺者を捕まえる。
マオはただのペットにしか見えない。だというのに暗殺者二人を簡単に転がしてしまう。
明らかに、全員おかしかった。
一人だけでも変なのに、それが他にもいる。暗殺者たちには、何が何だか分からない。
(まさかたった二人と一匹に全員捕まってしまうなんて……。そんなことはあり得ないはずなのに)
今、目の前で起こっている現実を信じたくないと思うのは当然のことである。
暗殺者としての、これまで数多の仕事をこなしてきたからこその誇り。彼らはその誇りがあるからこそ、トリツィアたちに捕縛されてもまだ冷静さを保っていた。
どうしてこのような事態に陥ったのかは理解が出来ない。
何をされたのかも分からない。目の前の存在たちが何なのかも分からない。
混乱していてもなんとかこの状況をどうにかしようとしているのは、それだけ彼らがプロフェッショナルだからである。
しかしそんなもの、圧倒的な力を持つ者を前にすればどうしようもないもの。
「ねぇ、どうして私のことを狙ったの? 他にももっときそうだったりするの?」
トリツィアは平然とした様子で問いかける。
全く顔色一つ変えずに暗殺者に質問を投げかけるトリツィアはやっぱり色々とおかしいと言えるだろう。
暗殺者たちはその異常性を理解しているが、暗殺者たちがその情報を漏らすわけにはいかない。
仕事というのは、基本的に信用商売であると言えるだろう。その裏組織もぺらぺらと依頼者の情報を語るわけにはいかない。
「トリツィア、こういう奴らは簡単には口を割らないだろ」
「んー、夜だし、寝る時間だし、あんまり時間かけたくないなぁ」
「俺の方で進めようか?」
「ううん、それは大丈夫。私を狙ってきた人たちだから、私の方でどうにかしたいなぁって」
オノファノから言われた言葉にトリツィアはそう告げてにっこりと笑う。
その足元にはマオがいる。
暗殺者たちを前にしても彼らはどこまでもいつも通りである。
「夜は眠る時間だからさっさと終わらせないとね」
トリツィアはにっこりとほほ笑み、暗殺者たちを見据えている。
「喋らないなら、こうかな」
トリツィアがそう呟いたと同時に、暗殺者のうちの一人が痛みにのたうち回る。しかし声を発することは出来ないらしい。おそらくそれもトリツィアが何かしているのだろう。
トリツィアが何をしているかと言えば、巫女としての癒しの力を逆転させている。
その力は基本的には何かを癒すために使われるものであり、それ以外のことに使う人は少ない。
しかし、その力はやりようによっては逆のものを与えることだってできる。
誰かの身体を癒すことが出来るのならば、壊すこともできる。そういうものである。
「な、なにをした……?」
「私の手の内を簡単に明かすわけがないでしょ? 全員同じことをしてあげる。殺すのは一瞬だけど、それじゃあ情報集まらないからね。私は寝たいから、出来れば早く情報吐いてね」
のたうち回る一人の暗殺者。それを見て驚愕する他の暗殺者たち。
そんなものを前にしてもトリツィアはいつも通りである。
トリツィアの頭の中にあるのは、夜なので寝たいなぁというそれだけである。
そういうわけでトリツィアは容赦がなかった。
癒しの力を逆転させ、苦痛を与える。声を出せないようにしておきながら、その暴れる音で周りが起きないように彼らの周りを結界で囲んでいる。
死んだ方がましだと思えるような、そういうものを意図的にトリツィアは与えていた。
「ご主人様は恐ろしい……」
「トリツィアは手を出されなきゃ何もしてこないから、手を出す方が悪い」
「……なんであの人間共はわざわざご主人様に手を出すのだろうか」
「トリツィアのことを見くびっているからだろ」
マオは目の前で拷問をしているトリツィアを前にぶるぶると震えている。対して、オノファノは平然としている。
――結局、トリツィアのその癒しの逆転による苦痛に耐えられなかった暗殺者たちは口を割った。
暗殺者たちはトリツィアに今後、手を出さないことを条件に開放された。そして解放された五人は笑顔で痛みを与えてくるトリツィアに恐怖し、そのまま組織からも暗殺者という立場からも逃げた。
裏組織から無断で抜けることは組織への裏切りとなり、狙われることになる。
彼らは、組織を敵に回すよりもトリツィアがただただ恐ろしかったのだろう。




