王子様からの恋愛相談 ③
「あ、あなたは何をおっしゃっているのですの!!」
『どうしてばれたんだろうって焦ってるよー』
幾ら取り繕うとも、精霊翻訳の前では意味がなかった。
人の気持ちを簡単に読み取ってしまう精霊たち……、悪用すればそれはもう恐ろしい力である。
「素直になりましょうよー。焦ってますよね? 私の前では建前は無力ですよ? あ、もちろん、今だけ特別です! 王子様が婚約者さんの本音を知りたいんだーって言ってたので、分かるようにしているのです」
トリツィアはいつも人の心を勝手に知っていると言う風に誤解はされたくはなかったので、特別だと告げながらにこにこ笑っている。
「なっ、そ、それは言わなくていいだろう!!」
「んー? 王子様は婚約者さんと仲良くなりたいのですよねー? ならばちゃんと言葉にした方がいいです!」
トリツィアには恋など分からない。しかし、婚約者同士で互いに好意的ならばそれなりに素直になった方がいいのではないかと思っている。
基本的に嘘は吐かないトリツィアなので、本人たちの前でこの調子である。
「……そ、それはそうだが」
「殿下が、私のことをそんなに……?」
『それだけ私の事をって感激しているみたい』
にこにこと笑っているトリツィアと、無言のオノファノの前でジャスタと婚約者は見つめあう。
そして互いにぽっと顔を赤くする。
(うんうん。仲良さげなのは良いことだよね。それにしても婚約者ってこんな感じなんだ。でもどろどろしたような関係もあるらしいっては知ってるけど、こういう仲良いのもあると夢があるよね)
トリツィアはそんなことを考えながら楽しそうにしている。
オノファノは何でこんなものを見せつけられているんだろうと思いつつも、トリツィアが楽しそうなので満足していた。
「このままキスとかしちゃうのかな?」
「いや。流石に人前ではしないだろう」
「えぇ? 凄く雰囲気いいよ。こういうのがキスするような雰囲気なんじゃないの?」
「……どこでそんなの知ったんだ?」
「女神様がね、言ってた。女神様は昔少女漫画っていうのが好きだったらしくて、その話よくされるの」
「よく分からないが、女神様の影響か……」
トリツィアがこそこそとオノファノに話しかければ、オノファノも返事をする。
「で、殿下。私はその……貴方のことをお慕いはしております。は、恥ずかしいのでな、中々素直になるのは難しいですけど!!」
『ああ、恥ずかしい!! って言ってるよ』
ジャスタと婚約者が話している間も、精霊翻訳は続いていた。
「本当か! それは嬉しい!」
「きゃっ、だ、抱き着かないでくださいませ!!」
「すまない!!」
「しゅ、しゅんとした顔なんてしないでくださいませ!!」
トリツィアはそんな会話を交わしながらいちゃいちゃしているジャスタと婚約者の様子を見ながら目を輝かせている。
(いちゃいちゃってこういうのを言うのかな? 精霊翻訳で良い感じに上手くいきそうで何よりだよね)
『トリツィア、ああいうのはまだ貴方には早いわ』
(女神様、こんにちはー。女神様も見に来たんですか?)
『ええ。トリツィアにちょっかいだしていた子が婚約者を連れてくるって話だったから。それにしてもツンデレ少女というのは可愛いものね』
(そうですねー。これが女神様の言うツンデレなんだなって見てました)
『そうね。でもそろそろ帰ってもらいましょうね』
(女神様が言うならそうしますー)
トリツィアのことを女神様は大変可愛がっているので、まだトリツィアには早いと思っていた様子である。
トリツィアは女神様相手では特に素直なので、頷く。
「王子様、婚約者さん、仲良くなれたみたいで良かったですねー。仲良くするのならば二人きりでにしましょう!!」
トリツィアがそう言って話しかければ、ジャスタと婚約者ははっとした様子を見せる。
そして婚約者の顔は赤く染まった。トリツィアとオノファノに見られていると実感して恥ずかしくなった様子である。そんな婚約者のことをジャスタは優しい目で見ている。
穏やかな雰囲気のジャスタと婚約者。
ジャスタはその後すぐにトリツィアの方を見る。
「ありがとう、トリツィア。君のおかげで上手くいった。約束通り食べ物を送ろう」
「殿下……食べ物の代わりに頼みごとをしたのですか? もっときちんとしたものをお礼ならば与えるべきでは?」
「婚約者さん、私が珍しい食べ物が欲しいなと思ったのでそれが一番いいのです。婚約者さんも良かったら珍しい食べ物とかください!!」
ジャスタの言葉に婚約者が疑問を発し、それにトリツィアが答える。
……まさかジャスタたちもトリツィアがそのもらった食べ物を女神様に食べさせようとしているというのは思っていないだろう。
そして食べ物をもらうことを約束した後、ジャスタとその婚約者は帰って行った。
「どんな食べ物くれるかなー。楽しみー。オノファノも食べる?」
「もらっていいなら食う」
「もちろん、いいよ。女神様にも食べてもらうんだ」
そして二人が帰った後、トリツィアとオノファノはそんな会話を交わすのだった。




