王子様からの恋愛相談 ②
「王子様の婚約者さんどんな人かなぁ。やっぱりお姫様みたいな感じなのかな?」
「貴族令嬢ならキラキラはしているだろうな。それより本音はどうやって知るつもりだ?」
「精霊に読み取ってもらいます」
「……精霊って人の心分かるのか?」
「なんとなくは」
「俺の心は読ませるなよ」
「もちろん、必要な時しかしないよ。今回は王子様の頼みだし」
にこにこと笑いながらトリツィアはそんなことを言った。
トリツィアが当たり前みたいに仲良くしている精霊は、それだけ特別な存在である。
そんな特別な精霊たちと日常から交流を深めているトリツィアがどれだけ特異な存在か分かるだろう。
オノファノとしてみれば精霊が自分の気持ちをトリツィアに伝えてしまったら――なんて思ってしまっているのだろう。
「本音が嫌なものじゃなきゃいいけど。精霊たちも人の醜い心に触れたくないだろうし」
「そういうの嫌がるのか?」
「嫌がるっていうか、今回頼んだ精霊は力が弱くないから問題ないけど、弱い精霊だとそういう気持ちに影響されたりするって女神様が言ってたもん」
精霊は大きな力を持つ存在だが、人の心に触れすぎてしまうとそれに影響されるということもある。
トリツィアは精霊に無邪気に関わっているが、精霊のことを悪いように利用しようとする人も居ないわけではない。
「精霊の暴走って怖そうだな」
「過去に街が亡びたりしたらしいよ」
「それは怖い」
その街を亡ぼすような力を持つ精霊。
そういう力を持つ精霊どころか、女神様まで味方につけているトリツィア。
……きっと周りがトリツィアのことを知ったら囲いこもうとするものも多いだろう。
そうやって会話を交わしながら少し過ごしているうちに、王子様が婚約者を連れてやってくる日が訪れた。
その王子様の婚約者は、トリツィアの目から見てとても綺麗な人だった。
美しい艶のある黒髪に、真っ黒な瞳。どこか気の強そうな雰囲気で、かっこいい。
(とっても美人さんだなぁ。やっぱり貴族の人だと凄く綺麗な人多いよね)
ジャスタに連れられてこの大神殿にやってきたその令嬢は、にこやかに笑うジャスタとは対照的に不機嫌そうな表情を隠しもしない。
「精霊たち、お願いね」
『うん。分かった』
トリツィアがお願いをすると、精霊は嬉しそうに笑いながら令嬢の周りを飛び回る。
もちろん、令嬢はそれには精霊に気づく気配はない。
「どうしてこのようなところに私を連れてくるのですか?」
『一緒に出掛けられて嬉しいみたい。でもトリツィアが可愛いから嫌みたい』
不機嫌そうにジャスタに問いかける様子は、あまりジャスタのこともこの状況も良く思っていないように見える。
――しかし精霊の翻訳によると、喜んでいるらしい。
(素直になれないタイプってことかな? 女神様が前にこういう風に好きな相手に対してツンツンしているけれど実は大好きっていうのがツンデレっていうやつだって言ってたよね。女神様の世界でそういう言葉が浸透してたって。そういうタイプなのかな? 言いたいことは素直に言った方がいいと思うけど)
トリツィアはそんなことを考えながら、ひとまず自分がジャスタとは何もないことを伝えることにする。
「初めまして。王子様の婚約者さん。とっても綺麗ですねー。あと私はこの王子様に興味ないので、よろしくお願いします」
軽い調子のトリツィア。
令嬢が眉を顰める。
「あなた、無礼ではなくて? 殿下に対しても私に対してもそのような態度をしてはいけません」
『トリツィアがあまりにもな態度をしているから心配しているみたい。貴族に罰せられたりするんじゃないかって』
そして言動からは分からないけれども、その令嬢は優しいようである。
トリツィアはそんな精霊による本音の翻訳を知り、楽しそうににこにこと笑う。
「心配してくれてるんですねー。ありがとうございます」
「なっ、心配なんてしてないわよ! 勘違いしないでくれる!?」
『なんでばれたんだろうって困惑して焦っているみたい』
トリツィアがにこやかに笑えば令嬢は焦り、精霊は楽しそうに翻訳をしている。
「おいおい、君たちだけで会話をしないでくれ」
ジャスタはトリツィアが婚約者と楽しそうに会話をしているのに割り込んでくる。
「……それで、何かわかりそうか?」
そしてトリツィアに近づき、そんなことを問いかける。
そうすれば令嬢は不機嫌そうな顔をする。
「殿下、未婚の女性にそのように近づいてはいけません」
『羨ましくて嫉妬しているみたい』
言葉と気持ちが一致していない様子が精霊の言葉で見て取れる。
「王子様、婚約者さんは王子様のこと大好きですから安心していいですよー」
「な、あああ、あなた何を言っているの!!」
「婚約者さんも素直になりましょー。王子様、嫌われているかもって思ってましたよ」
トリツィアはにこにこと笑いながらそんなことを言うのだった。




