王子様からの恋愛相談 ①
「なぁ、聞いてくれ!」
「王子様、どうしたんですか?」
トリツィアの目の前にいるのは、第二王子であるジャスタである。
ジャスタはトリツィアに懸想した様子が以前あったが、今はそうではないらしい。
「婚約者の気持ちが分からないんだ!」
「婚約者が出来たんですね!」
「ああ。とても可愛い子だ。その子の気持ちが分からなくて、どうしたらいいだろうかと思ってきた」
ジャスタには、婚約者が出来たらしい。
何を思ってトリツィアに聞いてほしそうに大神殿にやってきたのかは分からないが、わざわざ大神殿にまでやってきたジャスタを追い返すほどではなく話を聞くことにした。
トリツィアは巫女である。
神職である巫女は民の言葉を聞くことも一つの仕事であった。
(王子様には婚約者が出来たのかぁ。それにしてもどうしてわざわざ此処に来たんだろう?)
トリツィアにとってジャスタに婚約者が出来ようが出来まいが、正直言ってどちらでも良いことであった。
婚約者が出来て、その女の子に好意を抱いていることは良いことだとは思うが……それだけである。
どうしてわざわざ此処にやってきたのか、その意図は分からなかった。
「それでどうしてわざわざ此処に?」
「……王族は、自分の本音を周りに早々は口にできないものなんだ。俺は確かに婚約者に好意を抱いているし、その気持ちを知りたいと思っている。でもその婚約は政略的なものなんだ」
「だからなんですか? 気に入っているなら気に入っているで言えばいいだけです」
「それが出来ないから困っているんだ!!」
トリツィアは不思議そうな顔をしているが、王侯貴族社会というのは本音ばかりを語れる世界ではない。
何かがあればすぐに蹴落とされてしまうようなそんな恐ろしい社会である。
とはいえ平民出身であり、圧倒的な力を持ち自由気ままに生きているトリツィアにはその苦労は分からない。
トリツィアはジャスタの話を聞きながら、王族って大変だなぁなどとのんきに考えている。
ちなみに王族であるジャスタがトリツィアを相談相手に指名したため、今回は貸し切りで相談がなさてている。当たり前だが、完全に二人きりではなくオノファノやジャスタの護衛騎士たちの姿はある。
トリツィアがなんだかんだ巫女姫や王族と親しくしているので、神官長は胃が痛そうにしていた。
「私に話した所でどうしようもないと思います」
「それはそうだが……その、君は凄い巫女だろう。彼女の本音を知るために何か出来るのではないかと……」
王族貴族の世界のことなど全く持って知らないトリツィアにとって、なんでこの王子様はこんなところで相談をしているのだろう? と思った。
とはいえ本当に困っているらしいので、トリツィアは手助けはすることにした。
「やろうと思えばどうにでも出来ると思います。一回、その婚約者さんを連れてくること出来ますか?」
「いいのか?」
「はい。ただ代わりに美味しいもの送ってきてください。王子様なら良いもの沢山食べてますよね?」
「ああ。もちろんだ! ありがとう!!」
トリツィアの言葉にジャスタは嬉しそうに笑った。
トリツィアが美味しいものを求めたのは、女神様と一緒の女子会で食べるためである。精霊たちから貢物としてかなり珍しいものを渡されてきたりしているトリツィアだが、人間社会の高級なものはそこまで口にしたことはない。
折角なので女神様にそういうものを食べてもらうためにもそういう申し出をしたわけである。
ここで見返りに食べ物を求めるあたり、トリツィアらしいと言えるだろう。
王族であるジャスタ相手に借りを作れるのだからもっといろんなことを望むことが出来るのに、トリツィアにとっては他の者たちが喉から欲しがるようなものはどうでもよく、美味しい食べ物の方が重要だった。
ジャスタもそういうトリツィア相手だからこそ、頼みごとがしやすいのかもしれない。
王族というものは周りからかしこまれる立場ではあるが、その分苦労も多い。その権力を狙う者は多く、ジャスタもそれなりに苦労しているのだ。
ジャスタは嬉しそうな顔をして一旦帰っていった。
「婚約者さんどんな人だろう? 嫌な人じゃなきゃいいなぁ」
「王族の婚約者だからどうだろうな……」
「嫌な感じの人でなければいいけどなぁ」
ジャスタが帰って行った後、トリツィアとオノファノはそんな会話を交わす。
トリツィアは下級巫女なのでパーティーなどにも全く参加せずに、貴族とのかかわりはあまりない。とはいえ、噂で聞く貴族の中には横暴な人もそれなりにいるのである。
そういう存在だったら嫌だなといった様子である。
「まぁ、その令嬢がどういう存在でもどうにかすればいいだろ」
「それはそうだねー」
……そしてトリツィアとオノファノは、その婚約者がどういう存在であろうとも何かあればどうにかする気満々であった。




