魔王の復活。巫女を攫いにきた魔王の運命は……①
『――魔王が復活しました』
そんな神託が巫女姫、アドレンダの元へと下った。
魔王は三百年ほど前に封じられた存在である。トリツィアが邪神の方は封印し、弱体化させているので幸いだったと言えよう。本来ならば、魔王に邪神に……と色んなものが封印がとけたり、復活したりが重なるはずだったのだ。
あとトリツィアが串焼きにしていた蛇も。
アドレンダは、魔王の復活という単語を聞いて気を引き締めた。
魔王は人類を支配しようともくろむ悪である。過去の歴史の中には、魔王によってこの大陸が支配されていた暗黒期も存在していた。なんとかその支配から抜け出し、今があるわけである。神に選ばれた英雄たちが大活躍したと記録が残っている。
(まさか、魔王が復活するだなんて。……トリツィアさんが邪神の方はどうにかしてくれていたからよかったわ。そうじゃなければ邪神もいて、魔王もいて……それこそ暗黒期に突入していてもおかしくないもの。……魔王のことを対応しなければならないわ)
そんな思考を神妙な顔でするアドレンダ。
その隣にはこの前、散々ソーニミアに怒りをぶつけられた騎士、ゼバスドがいる。
アドレンダから魔王の話を聞いたゼバスドは、こわばった顔をする。
「魔王が復活ですか……。間違いないのですか?」
「ええ。ですから会議を開き、対策を練らなければなりません。また現れるであろう勇者の捜索も」
勇者とは魔王と対になる存在である。
魔王が現れれば勇者も現れる。そういうものである。
勇者の捜索も神殿の大きな役割でもある。
……過去に勇者の捜索に遅れ、他の勢力が勇者を抱え込んだ際は政戦の道具のように勇者がされてしまった歴史もある。また勇者という特別な存在をわが物にするために人質を取るといったことも行われた。
もしくは、神殿側が不手際をし、勇者と断絶してしまったということも記録に残されている。
なので勇者の扱いは慎重に行わなければならない。
また、勇者が魔王を倒した後の待遇についてもだ。
結局勇者という存在は神に選ばれた英雄であるため、影響力が大きいのだ。
「……勇者が魔王を倒せればいいのですが」
勇者といえど、負けることもある。
その時の場合も考えなければならない。アドレンダは頭が痛くなってきていた。
どうして自分が巫女姫として生きている時代にこういうことが起こるのだろうかと、そんなことを思っている。
「……巫女姫様、もし仮に勇者が魔王を倒せなかった場合はトリツィアに連絡を取るのはどうですか?」
「トリツィアさんならどうにでもできそうですが……流石に下級巫女のトリツィアさんにそのことを頼むのは甘えすぎです。トリツィアさんの力は確かに強大です。しかし、トリツィアさんの力を利用しようとか、使おうとかそういうことを思ってはいけません。そのようなことをしたらソーニミア様の怒りをまた買ってしまいますよ」
ゼバスドの言葉に、アドレンダはそう答える。
一人の力が強大だからと、その力ばかりあてにしていてはいけないだろう。
巫女姫であるアドレンダだって、その力が強大だからとあてにされることも多い。巫女姫としての生き方にアドレンダは不満はない。そして神への信仰心から巫女姫としての務めもやり切ろうと思っている。
……ただあまりにも巫女姫だからと色々言われるのは疲れるものだ。
だからこそ最近文通を交わしているトリツィアは、付き合いがしやすい相手である。トリツィアはアドレンダよりも力が強く、アドレンダのことを特別に見ていない。
様付けはしてくるものの、トリツィアはとても気やすい態度をしている。
「それもそうですね……。しかし、魔王は巫女を狙ってきますよね?」
「ええ。力の強い巫女のことを狙っています。巫女のことを魔王は攫うことも多いです。……私も狙われているでしょう」
「……いえ、巫女姫様。それよりもトリツィアの方が狙われるのではないですか? それにトリツィアのいるドーマ大神殿は邪神が封じられている石碑があります。そちらに魔王が向かうことはあるのではないですか?」
「……それもそうですね。トリツィアは身分は下級巫女ですが、力だけは人一倍強いです。トリツィアには狙われるかもしれないことは伝えておいた方がよさそうですね。あとは、狙われた場合はどうにでもしていただいていいと書いておきましょう」
従来、魔王が復活した際に狙われるのは巫女姫である。基本的に力の強い巫女を攫おうとする。
しかし今回は誰よりも力を持つトリツィアという巫女がいる。
トリツィアが狙われる可能性は確かに高い。
そういうわけでアドレンダはトリツィアに手紙を書いた。
魔王が復活したこと。魔王がそちらに向かうかもしれないこと。そして襲撃を受けたら好きにしていいということ。
その三点が書かれた手紙である。




