上級巫女になんてなりません! ④
「ようこそ」
トリツィアたちの目の前には、朗らかに笑う美しい白髪の少女がいる。
長い髪は結われ、美しく整えられている。真っ白な巫女としての服装には、金色の装飾が施されている。
その金色の糸は高級な蜘蛛の糸が使われている。
美しく、神秘的な少女の後ろには騎士たちが控えている。
その神殿騎士たちは、この総本殿に所属出来るぐらいだから優秀なのだろう。
トリツィアはその『純白の巫女姫』と呼ばれる存在を嬉しそうな顔をしてみている。
(巫女姫様の周り神聖な雰囲気あるなぁ。精霊もいるし。でも巫女姫様は精霊のことは見えてなさそう)
巫女姫の周りに精霊が飛んでいるのをトリツィアは視認する。その精霊は巫女姫のことを気に入っているのだろう。
その周りを飛び回る様子を見て、トリツィアは思わず小さく笑う。
その精霊はトリツィアが自分のことを見えていることに気がついたらしい。
目を輝かせて、トリツィアの事を見る。
『僕のこと、見えてるの?』
トリツィアはそんな言葉に笑って、小さく頷く。
一応、巫女姫や騎士たちがいるので声に出して返事をするのはやめたらしい。精霊が見え、その精霊と言葉を交わせるというのは特別なことなので、あまり周りにと露見しない方がいいのである。ここでそれが広まれば上級巫女にさせられることが間違いない。
『わぁ。君、凄い力なんだね!! 僕のこと見えていて、声も聞こえているなんてすごい!!』
トリツィアはその言葉を無視する。
『どうして無視するのー?』
そんな悲しそうな言葉にトリツィアは良心を痛めながら言葉には答えない。
「私はアドレンダ。トリツィアさん、あなたの噂は聞いています。ぜひ、その力を神に尽くしていただくためにも上級巫女になることを命じます」
「神様に尽くすことには異存はないですけど、上級巫女になるのは嫌です!!」
「トリツィア!! 巫女姫様、申し訳ございません!!」
巫女姫の言葉に、トリツィアは拒否し、その言葉を聞いて慌ててイドブはトリツィアの頭を押さえて頭を下げさせる。
「イドブさん、手を離してあげてください。……それよりどうして嫌なのですか? あなたは見ている限り、とても強い力を持っていると思います。その力を存分に使うためにも上級巫女になった方がいいと思いますが」
「制約が沢山ありそうですし、私は下級巫女の暮らしが気に入ってます。なので、上級巫女にはなりません」
「確かに制約はありますが……それよりも利点の方が多いと思いますよ? 上級巫女になれば今よりも良い暮らしが出来て、権限も増えますし」
「今の暮らしで満足です。だから、嫌です」
トリツィアは中々頑固というか、自分の意見を曲げない方である。
下級巫女の暮らしを気に入っており、上級巫女としての責務なんてこなしたくないのである。
「……下級巫女、トリツィアよ。巫女姫様の言葉をそのように拒否することは許されないことである。巫女として平穏な暮らしをしたいのであればその命令に背くことはよしなさい」
「ゼバスド! やめなさい!」
「いえ、巫女様、どれだけ力があろうとも所詮巫女姫様にはかないません。神の言葉を聞ける尊き存在である巫女姫様の言葉を無礼にも拒否をするのは許せません。この下級巫女は自分の力を過信しているのでしょう。だからこそ、このような無礼なことを言えるのです」
巫女姫の後ろに控えていた黒髪の騎士が不機嫌そうに言う。
トリツィアは自分の力に過信しているとかそういうわけではなく、本当にただ上級巫女になりたくないだけであるが、そんなことは騎士には分からない。
トリツィアは一般的な考え方では測れないのである。
「んー、私が断ったらひどいことするってことですか?」
「巫女姫様に無礼を働いているのだから、報復があるのは仕方がないだろう」
「私はやられたらやり返しますけど問題ないですか? あと本当に面倒なことになったら神殿を出ていきます。神様への祈りは神殿じゃなくても出来ますからねー」
トリツィア、言質を取ろうとしていた。
これで頷かれたら本当に思う存分やり返す気満々である。まぁ、巫女姫様は神殿で最も立場が高い女性で、その女性に無礼を働けばそれだけ反感を買ってもおかしくない。
ちなみにそういう会話がなされている中、イドブは顔を青ざめさせているが、オノファノはいつも通りである。オノファノも図太い。
「……おかしなことを。そのようなことをすれば神殿から追われることも考えなければならないぞ」
「別に神殿が関わりない場所でのんびり過ごしてもいいですし」
ある意味異端認定されるぞという脅しである。しかし、トリツィアは女神様と友人関係なので、女神様が異端認定は許さないだろう。
『喧嘩しているの? やめた方がいいよ』
精霊は心配そうにふわふわ漂い、そんな声をあげる。
『トリツィア、変わりなさい。私が話すわ』
(あ、女神様! 今の暮らしがいいって言ってるのに、皆、色々言ってきますねー)
『まぁ、トリツィアのような子は珍しいから理解出来ないのよ』
トリツィアがどうしようかなと考えていると女神様が声をかけてきた。
今日もトリツィアの様子を見ていたらしい。
「ちょっと人払いしてもらうことって出来ますかー?」
「貴様、この期に及んで――!!」
「ゼバスド、黙りなさい」
トリツィアの言葉に、ゼバスドが怒り、それを巫女姫がとがめる。
巫女姫は力が強いからこそ、トリツィアの異質性というか、おかしさに気づいているのかもしれない。
「いいでしょう。ただし、ゼバスドは控えさせていただきます。流石に一対一では難しいです」
「わかりましたー。じゃあ、オノファノも置いときます!」
「いいでしょう」
そういうわけで、騎士や神官長たちは反対していたが、巫女姫、ゼバスド、トリツィア、オノファノの四人で会話をすることになった。




