上級巫女になんてなりません! ③
「わぁ、流石総本殿、とてもきれいな神気にみちているわ。流石ですねー」
「トリツィア、ちょっと静かにしなさい」
「はーい」
トリツィアは総本殿に辿り着くとすぐに嬉しそうにきゃっきゃっと声をあげる。
その様子をイドブはたしなめる。
総本殿は、真っ白な大きな建物である。トリツィアの暮らしているドーマ大神殿よりもはるかに大きい。ステンドグラスの窓に、いくつも並べられている神像。
――様々な国の神殿を統括する総本殿は、ムッタイア王国の北に位置する都に存在する。
その場所を訪れたのは、トリツィアは初めてである。
ただの下級巫女であるトリツィアが簡単に訪れることが出来ないようなそんな場所だ。
だからこそトリツィアはなんだか楽しそうにしている。
トリツィアが上級巫女の立場になればまた別だろうが、トリツィアはそんなものになる気はない。
「ねぇ、オノファノ。とても大きいね」
「そうだな」
「巫女姫様ってどんな人だろうね。凄く楽しみ」
「……怒らせるような真似はしないようにな」
「うん」
イドブから注意されたので、トリツィアはこそこそとオノファノに話しかけている。
オノファノはトリツィアが自由にしているのを見るのが好きだ。だからこそトリツィアがその巫女姫様相手に無礼な真似をして大変なことになったら嫌だと思っている。
(トリツィアのその力に目をつけられて、トリツィアが自由を損なわれる立場にされたら――多分トリツィアは巫女をやめるだろうな。その時は俺も……ついていこう。トリツィアの力が認められてもトリツィアを上の立場にされたり、怒りを買っても動きにくくなったりそうだよな。トリツィアが大人しくするとは正直言って思えないけれど、トリツィアならなんとかしそうだ。俺はひとまず大人しく後ろに控えているだけだ)
オノファノはトリツィアが自由きままに生きている様子を見るのがとても好きである。無邪気に笑っていて、何も不安など感じていない様子でただ過ごしたいように過ごしている。それを見られるだけでオノファノは楽しい気持ちになる。
(……トリツィアがこの総本殿で自由を抑制されてしまうことが決められてしまったらトリツィアは全力で抵抗するだろう。そして俺だって同じように抵抗する)
――オノファノは神殿に仕えている騎士であるが、優先しているのはトリツィアの自由である。
神に仕えているとか、そういうわけではなくトリツィアの傍に居たいからと騎士をやっているのがオノファノなので、それを一番に考えているのだ。
「――巫女姫様は、どういう人なんだろう」
トリツィアはただ無邪気に、巫女姫と呼ばれるだけの力を持つ人がどんな人なのだろうかと楽しみで仕方がない様子である。
他にも神殿にとってのお偉いさんは沢山いるのにも関わらずトリツィアの頭の中は巫女姫のことでいっぱいのようだ。
(巫女姫様がどういう方であろうとも、トリツィアの方が力が強いだろうな。トリツィア以上に力を持つ存在を俺は知らない。多分、どんな巫女よりも力があるだろうし)
オノファノは巫女姫という存在にトリツィアほど関心はない。仮にもオノファノは神殿に仕えている身なので、巫女姫のことを気にしていないわけではない。だけど、そんなに興味もない。
――巫女姫はそれなりの力があるが、本当にそれだけである。
総本殿の一室に三人で案内され、その場で待つように言われる。
巫女姫にこれから会うわけだが、巫女姫は神殿の中でも重要な立場なのですぐに会うことなど出来ないのである。
その一室も豪華な装飾が壁などに施されていて、神聖な雰囲気を醸し出している。
その装飾の一つ一つにも神聖な意味をあらわす生き物だったり、文字だったりが描かれている。トリツィアはそういうものを見るのも好きなので、興味深そうにきょろきょろしている。
ちなみにだが、この場にはトリツィア、オノファノ、イドブの三人だけがいるわけではない。
控えている神官はあまりにもきょろきょろとあたりを見渡しているトリツィアを、田舎者を見るかのような目で少しだけ蔑んでいる様子である。もしくは何故こんな少女が巫女姫に呼ばれているのだろうかという疑念もあるのかもしれない。
トリツィアは一見すると、ただの可愛らしい少女でしかない。
こうして総本殿で楽しそうにきょろきょろしているトリツィアが巫女姫に呼ばれるような存在には見えないのだろう。
(……こうやってトリツィアのことを侮っている存在が、トリツィアの力を知ったらがらりと態度を変えるんだよな。こういう存在はトリツィアの力を知ったらトリツィアの力を使わせようとしたりしそうだ。巫女姫様がトリツィアの力を利用するような存在じゃなければいいけれど)
オノファノはにこにこと笑っているトリツィアを見ながら、ただそんなことを考えているのであった。
――そしてそれからしばらくしてトリツィアたちは巫女姫に呼ばれた。




