下級巫女、出張に行く ⑦
トリツィアとオノファノは、街の周辺の村へと向かった。
その村のさびれた教会に足を踏み入れる。
巡礼の旅をしていることを言えば、その教会の神官は快く二人を受け入れてくれた。
文献を読ませてもらうと、村の南にある森にはちょっとした伝説が残っているらしい。
周りに全く広められていないような小さな伝説だけれども、トリツィアはその場所にも行ってみることにした。
魔物もいる森なので、神官には心配されたが二人は「大丈夫です」と告げてその森へと足を踏み入れる。
「こうやって一部にだけ残っている伝説というのもちゃんと伝えていかなければならないものよね。こういう伝説を伝えていくことが神様たちへの信仰心につながっていくもの」
信仰深いトリツィアは、そういう伝説を後世に伝えていくことは本当に大切なことだと思っている。
森の中へと足を踏み入れ、その伝承の残る場所へとトリツィアとオノファノは歩いていく。
「少し神聖な空気を感じるわね。ふふ、ちょっとした伝説でも確かにここに神様がいたというのが実感できるのは凄くいいわ」
「結構そういうの残っているものなのか?」
「うん。特に神様がいた場所ではそういう空気を感じるからね。大神殿は凄く女神様の神気が満ちているんだよ。そして、多分私もその影響受けているからそういうの感じられる人にはわかるんじゃないかな」
「……トリツィアみたいに神気を感じられる人はそんなにいないだろう」
「んー、世の中は広いから、私みたいな人もいるんじゃないかな。私と似たような性格だったらそもそもそんなに目立とうとはしていないかもしれないし」
「トリツィアは同じような存在がいるなら会ってみたいのか?」
「うん。興味はあるから。そういう存在とだったら気が合いそうじゃない?」
「……トリツィアはそういう人とそんなに会いたいのか」
「なんでそんなオノファノは微妙な顔しているの?」
オノファノはトリツィアが似たような存在と出会い恋をしたら嫌だななどと思っているわけだが、鈍感なトリツィアはそんなことは理解していない。
ちなみにそんな穏やかな会話を交わしている間にも魔物が襲い掛かってくる。
その魔物はトリツィアにぶっ飛ばされていた。大型の魔物が「きゃいん」という可愛らしい鳴き声をあげながら吹っ飛ぶ姿は目撃者がいれば目を疑ったものだろう。ちなみにその魔物はそのまま逃げて行ったので、トリツィアとオノファノはその後を追わなかった。
森の中の伝説の残る場所には、一つの石碑が立っている。
森の奥深くだからこそ、手入れを出来る人がいないのだろう。苔に覆われている石碑には、昔の言葉が刻まれている。
「掃除しないと!」
「ああ」
ひとまず掃除をしなければとトリツィアは気合を入れる。
きっと世界にはこういう場所が溢れているだろう。忘れ去られていく、神聖な伝説の残る場所が沢山あるのだろう。トリツィアはそういう過去の遺物が忘れ去られていくのは嫌だと思っている。
(んー、結局魔物が多い場所だと掃除に行くのも大変だから、もっと戦える神官がいれば別なのかな?)
こういう場所を掃除するのは、多分普通の人間には難しいのだ。
なのでトリツィアはそういう場所でも掃除が出来る人がいればいいのにななどと思っていた。
トリツィアはオノファノと一緒に石碑を掃除した。
綺麗になった石碑の文字を見る。
「ふぅん。ドラゴンスレイヤーがここに眠るか。ドラゴンがこの辺に出て倒したって感じなのかな」
「みたいだな」
「ドラゴンって翼狙って落として、倒せば結構すぐに倒せるよね」
「……それはトリツィアだけだろ。そもそも空を飛んでいる存在は落とすのが大変だろうから」
「何か投げるとか、自分が飛ぶとかしたら叩き落したりも出来そうだけどね」
「それはトリツィアだから出来るんだ」
「オノファノも出来るよね?」
「いや、まぁ、俺は出来るけど普通の人は難しいからこうやって石碑に残るのも当然だろうな。それに神様の気配を感じるなら、神の一柱がこのドラゴンスレイヤーに力を貸していたとかあるのかもしれないな」
「神様は気まぐれだからね。何か気に入って力を貸したのはあるかもしれないね」
トリツィアはそんなことを話したあと、石碑に向かって祈りをささげた。
神様は気まぐれで、人によっては自己中だと言われている存在である。
――その気まぐれさに、神様を憎むような言葉を口にする人もいる。
けれどトリツィアは神様の自己中さをよく知っているので、そういうものだと思っているだけである。
神様は気まぐれに、人に力を貸して、その伝説が沢山この世界には残っている。
言ってしまえばトリツィアが女神様と友人なのも、女神様の気まぐれによるものなのだから。
その気まぐれがあるからこそ、トリツィアは女神様と楽しく友人生活を送れているのだ。




