下級巫女、出張に行く ④
トリツィアとオノファノは神殿へ挨拶のために顔を出した。
まぁ、トリツィアも地位的には下級巫女で、それ以上でもそれ以下でもないので、軽く挨拶をして終わった。
「よし、挨拶もしたし宿にいこー!」
「……神殿に泊まるでもよさそうだけどな」
「どっちでもいいって言われているから宿でいいでしょ。それにあそこの神殿、下級巫女を泊まらせる余裕なんてないって態度じゃなかった?」
「まぁ、確かにな」
トリツィアとオノファノの訪れたその街の神殿は、権力のない存在を見下す傾向にあった。
神殿といっても清廉潔白な存在ばかりがいるわけではないので、ただの下級巫女と神殿騎士であるトリツィアとオノファノのことをどうでもいい存在だとそんな風に思ったのだろう。
トリツィアとオノファノに対してそういう感情があったとしても、二人が頼み込めば泊めてはくれただろう。
ただお金も渡されているし、そういうところに泊まるより宿の方がいいなとトリツィアは思っているらしい。
ちなみにオノファノはトリツィアの護衛という立場なので、同じ部屋を取ることになった。
オノファノはトリツィアに恋心を抱いているので緊張はするものの、それだけである。そういう気持ちがあろうとも、オノファノは仕事とプライベートは分けているし、そもそもトリツィアに襲い掛かれば大変なことになってしまうことが分かっている。
それにトリツィアに嫌われたくないと思っているので、そういうことをすることはないわけだが。
「この街でまずは何をするんだ?」
「まずはね、神殿とかでお祈りする。そのあとは、山の方にある湖行くよ! 神様の伝承が残っている地だからねー」
トリツィアはそんなことをいいながらにこにこしている。
トリツィアの目的は、巡礼の旅である。ついでに穢れがあれば浄化したりする予定である。
この街には、有名な山がある。その山を登った先に、湖がある。その湖には過去に神が降りたことがあると伝承が残されている場所である。
ちなみにトリツィアの良く話している女神様とは別の神の話らしいというのを、トリツィアは女神様から聞いていた。神の世界にも何柱もの神がいる。トリツィアはソーニミアのお気に入りでソーニミアとしか会話は交わしていない。
その女神様から、その伝承が本当のことだとは聞いているのでその湖を訪れることを本当に楽しみにしている様子である。女神様が嘘をトリツィアに言うことはないので、過去に神が降臨した地と思うと高揚した気持ちになる。トリツィアは信仰深いので、そういう伝承のことを知ることも、その場所に行くことも嬉しいことなのだ。
(女神様から今度また詳しく聞かないとね。その伝承の神様とも女神様なら会ったことがあるんだよね、きっと。そういう伝承について女神様から直接聞くことが出来るのって私凄く幸せ者だよね!)
トリツィアはそんなことを思いながら湖に行くことを考えて嬉しいのか、ベッドの上でにこにこしている。
「神様の伝承が残っている場所って何だか神秘的な感じはするよな。俺は神力は分からないけれどそう言う場所はなんか特別な気がする」
「ふふ、特別な場所だもん。神様に纏わる場所っていうのはね、神様が関わったからこそそこに力が宿るんだよ。オノファノのことも女神様はよく見ているからそのうち色々影響力増すかもね!」
「俺まで?」
「だって私の幼馴染だからね。そのくらいなっても当然だって思うよ」
トリツィアはそんなことを言いながら、信用しているといった目でオノファノを見ている。何だかんだオノファノのことを色んな意味でトリツィアは信頼しているので、オノファノならそのくらいなってもおかしくないと思っている。
そういうトリツィアという特別な巫女からの信頼というのは、人によっては重いと感じてしまうだろう。その重みに耐えられなくなってしまう人だってきっといるはずだ。だけどオノファノはその重みに負けることなく精進している。そういう部分を女神様もオノファノのことを気に入っているのかもしれない。
「まぁ、出来る限りその信頼にこたえてみせる」
「オノファノならきっと私が想像出来ないぐらい面白いことになるよ!」
「いや、ハードルをあげるな」
「えー、まぁ、そうならなくてもそれはそれだよ。ただそうなったら面白いなって勝手に思っているだけだよ」
「はいはい。とりあえず、その話はおいといて……明日朝から出かけるならもう寝ろ」
「眠りが浅いのは、身体に悪いもんね! 私は寝るね、おやすみー。オノファノも寝なよ。誰にも手を出させないように色々力使っておくから」
オノファノとトリツィアはそんな会話を交わした後に眠りに付いた。
治安の良い街だったので、特に就寝中に何か不測の事態が起こるということもなかった。そして翌日になってから二人は朝早く宿を出るのであった。




