下級巫女、出張に行く ②
「オノファノ、出張行くよー。準備してね!!」
「浄化の旅か? トリツィアが行くのは久しぶりだな」
「うん。だから結構楽しみなの」
「他の護衛騎士は?」
「ん? 私とオノファノだけの予定だよ! 神官長がいいって言ってた」
「……俺とトリツィアだけか? トリツィアの準備は?」
「私は何処でも生きられるし、準備はそんなないよ」
「いや、最低限の旅の支度はしろよ。流石にそのままで飛び出すのはなぁ……」
「じゃあ最低限はする。オノファノもさっさと準備してね? でも私とオノファノの二人ならば別に荷物いらなくない?」
「まぁ、いらないけど」
正直、トリツィアもオノファノもどんな状況でも生きていけるだけの力があるので、旅の支度なんてそこまでする必要もない。トリツィアが浄化も出来るので、同じ服装でも特に問題もない。
それに魔物を狩って食べたりといったこともすぐに出来るので、最低限の保存食があればどうにでもなるだろう。
最もトリツィアがお腹を空かせていれば、すぐに何処からか精霊がやってきて食べ物を恵んだりぐらいはすぐにしそうだが。
旅をするというのは、危険なことが多い。
まず第一に魔物。この世界には魔物と呼ばれる存在が居るので、自然豊かな場所に行けばその存在に殺されてしまうこともある。そして人。当然、善人ばかりがいるわけではないので、治安の悪い地域だと盗賊などといった存在が居たりする。
それに危険な環境や植物などもあるので、人の手の入っていない場所は危険ばかりが溢れている。
だからこそ、準備をきちんとしなければすぐに死んでしまうことも多いのだ。
それでもそういう準備をせずに旅に出れるという時点で、トリツィアとオノファノはよっぽど普通とはかけ離れた存在であるということなのだろう。
「というわけで、いつから行く?」
「最低限の準備をしてからがいいから、数日後だな。それでいいって神官長からは言われているんだよな?」
「うん。いつでもいいって。まぁ、旅の期間はちょっと考えないとダメかもね」
「……流石に何年も空けてたら問題だからな」
「何年は流石にしないよー。まぁ、楽しかったら少しぐらいは時間かけちゃうかもしれないけれど」
「流石に時間がかかりそうなら俺が大神殿に連れ戻すから」
「ふふ、オノファノはその辺、ちゃんとしているよね」
トリツィアはそう言って笑った。
トリツィアにとって、浄化の旅というのはとても楽しみなものである。大神殿での暮らしは楽しいものであるが、外をぶらぶらするのは新しい刺激が沢山あるものである。
それからトリツィアは嬉しそうに大神殿でのんびり過ごしている。ちょっとした準備はしているが、これから浄化の旅に向かうとは思えないほどである。
(女神様、久しぶりの出張ですよ!)
『出張は良い気分転換になるわよね。ふふ、トリツィアとオノファノの旅だったらきっと面白いことになるわ』
(私もきっと面白いことになると思います。私が前に出張に行ってから比べるともっと強くなってますからね。どういうものでも倒せますよ)
『トリツィアに勝てる人はあまりいないでしょうね。ふふ、久しぶりの出張楽しんできてね。私もトリツィアのことは常に見守っているわね』
(ふふ、女神様に見守っていてもらえたらとても楽しい旅になりますよね)
トリツィアはそんなことを女神様と一緒にそんな風に話をしている。
『浄化の旅でトリツィアの美しい魔力が土地を浄化する光景を見れるのはとても素敵だわ。精霊たちも凄く喜ぶでしょうね』
(私も土地を綺麗にするのは好きだから、うんと、綺麗にする! それなりに楽しく旅をするわ。終わったら、また女子会に呼ぶから、またお話しましょう!)
『もちろんよ。何かあったら相談するのよ。トリツィア』
(女神様に話を聞いてもらえるのなら、うんと、楽しい旅にしないとですねー)
トリツィアは全く浄化の旅に対する心配をしていないらしい。
そういう様子を女神様はほほえましく思っているようで、楽しそうな笑い声がトリツィアの頭には聞こえている。
お祈りをしながらそんな会話をしているとは誰も思っていないことだろう。
トリツィアは、敬淑な態度で女神様との会話をすませると、またご機嫌そうに鼻歌を歌いながらいつもの行動に向かう。
(出張って何があるかな? 何もないのもいいけれど、何か面白いことがおこってくれた方が私は嬉しい。そしたら女神様に女子会で話す内容も沢山増えるし。オノファノと二人での旅なら無茶だって出来るから、どんなふうな行動が出来るか色々考えておかないと! 基本的に聖地巡りだけど、別に他によったらいけないわけでもないものね)
トリツィアは、そんなことを考えながら思考を巡らせている。
そして、それから数日後トリツィアとオノファノは少ない荷物で旅立つのだった。




