食べ歩きに勤しみます ⑥
トリツィアは嬉しそうに笑いながら、レッティを連れて歩いている。途中ではぐれないようにレッティの手を引いて歩いていたりもする。
トリツィアにとって、こうやって友人とお出かけするというのもあんまりないので余計に楽しいようだ。
ちなみにオノファノは幼馴染枠なので、友人と認識していない様子である。
あとトリツィアは巫女として過ごしており、加えてその力を示しているのでトリツィアに恐れを抱いている者が多く、友人として接してくれる相手はあんまりいない。
レッティもトリツィアについて特別な感情を抱いている。その感情は友情と言えるものなのかはレッティ本人がどう思っているかにもよるだろうが、トリツィアはレッティと友人になっているみたいと楽しそうだ。
その様子をオノファノは何とも言えない表情で見ている。
トリツィアに恋心を抱いているオノファノなので、トリツィアが楽しそうにしていることは嬉しいけれども自分と一緒に居る時よりも楽しそうな様子にジェラシーを感じている様子だ。
一緒についてきている神殿騎士の者たちはオノファノの気持ちも知っているので、護衛をしながらもオノファノの事をからかっている。
「レッティ様、これきっとレッティ様に似合いますよ!」
「まぁ、そうかしら? トリツィアさんにはこちらはどうかしら?」
ちなみにオノファノたちの様子を特に気にもせずにトリツィアとレッティは楽しそうに露店を見ていた。
基本的に必要な時以外はこうやって外に出ることも巫女はない。特にレッティは上級巫女であり、貴族の出なので、レッティはあまり街を歩くという経験もないのだ。
「レッティ様にこれ、プレゼントしますね!」
「え、いいのかしら?」
「もちろん。あと、ちょっと待ってくださいねー」
トリツィアはその花の装飾のついた髪飾りを手に取る。そして祈るような仕草をする。レッティには神聖な力がその髪飾りにまとわりついたのが見えた。
「トリツィアさん……今のって」
「お守りですよー。レッティ様に危険がないように、力を込めておきました!」
「そんな……そこまでしてもらうのは」
「いいんですよー。レッティ様への結婚祝いです!」
満面の笑みを浮かべたトリツィアは押し付けるようにその髪飾りをレッティに渡す。
特別な力を持つトリツィアの神聖力の込められた髪飾りは、本来ならばこんなに簡単に対価もなしに受け取れるものではない。
レッティはトリツィアがどういう人間なのかよく知っている。
そしてトリツィアの力が他に類を見ないほどに強いことを。
だからこそ、この髪飾りの価値も理解している。
だけれども結婚祝いだと無邪気に笑われてしまえばそれを受け取らないという選択肢もなくなる。
「ありがとうございます。トリツィアさん。大切にしますわ」
「ふふ。簡単には壊れないようにもなってますからね!」
「……トリツィアさん、他の方にこういうものをぽんとあげてはいけませんよ? 貴方が簡単に人に利用されるような人ではないことを私は知っていますが、それでも……貴方の力を知れば必ず利用しようとする人がいますから」
レッティのその忠告は、トリツィアの耳元でささやかれた。
トリツィアはその言葉を聞いて、笑った。
「ご心配ありがとうございます。レッティ様。でも私は大丈夫ですよー。私は自由が好きですから、私を閉じ込めようって人は許しません」
無邪気に笑うトリツィア。
その緋色の瞳は、力強い輝きを発している。
(トリツィアさんは……まるで眠っている竜のよう。私たちが手を出さなければその竜は暴れない。だけれどもトリツィアさんは……、自分の意に添わぬことを望まれたらその力を躊躇いもなく外に出すでしょうね。大神殿に居るのも、その暮らしを気に入っているから。この大神殿が気に食わない場所になれば飛び出すでしょうし。私も……トリツィアさんが大神殿からいなくなるのは嫌だから、神官長にもくれぐれもトリツィアさんが出て行かないようにいっておかないと)
この目の前の少女を前にすれば、国家権力など恐らく無意味。
なにかを人質に取るという行為をすればまず、間違いなくその犯人が破壊される。
自由を阻害されれば、すぐに飛び立ってしまうだろうことがレッティはよくわかっている。
だからこそ、くれぐれもトリツィアのことを刺激しないように神官長や大神殿の巫女たちに告げておこうと決意するのである。
「レッティ様? どうしました? 疲れました?」
「いえ、何でもないわ。それより次はどこを見ましょうか?」
「えっと、じゃあ――」
そうやってトリツィアとレッティは、お祭りを満喫するのであった。




