エピローグ 彼女と彼の日常は続いていく
「オノファノ、おはよう!!」
オノファノはそんな元気な声を聞きながら、目をうっすらと開ける。
そうすればベッドのすぐ傍に立ち、眠ったままのオノファノのことをにこにことしながら見ているトリツィアの姿がある。
――その姿を見ただけで、オノファノはただ幸せな気持ちになる。
「……あさ、か」
「うん。なんだか眠そうだねー?」
「昨日、遅かっただろ。……トリツィアも同じ時間に寝たはずなのに、元気だなぁ」
「私は元気だよー。ほら、オノファノ、起きて」
彼女と彼は結婚してからというもの、毎夜同じベッドで寝ている。
彼女は幼いうちから巫女として大神殿に入った。だからこそこうやって異性と共に布団で眠るなどというのは当然、結婚してからが初めてである。
夫婦として彼女達は仲睦まじい様子を見せているが、幸いにも……巫女としての力は失われていない。
そのことは少なからず噂にはなっているようだ。とはいえ、既に結婚している上級巫女のレッティも、その力は失われていないのでそこまで大騒ぎにはなっていないようだが。
「……」
「んー? やっぱり眠い? 起きてくれたら、キスしてあげる」
トリツィアのそんな声を聞いたオノファノはいきなり大きく目を開ける。その様子を見て、彼女は楽しそうに笑みを零した。
「あははっ、そんなに私にキスしてほしいのー? いいよー」
そしてトリツィアはそう言ったかと思えば、そのままオノファノの唇を奪った。こうして口づけを交わすのも、結婚してからは本当によくあることである。
一度だけの軽い口づけだと我慢できなかったのか、何度も口づけがなされる。
「オノファノは、私とキスするの好きだよねー?」
トリツィアは口づけが繰り返されたことに、何の文句もないらしい。
(こうやってオノファノが私にキスするのも、私のことが好きだからだよね)
そう実感すると、トリツィアは嬉しい気持ちでいっぱいであった。
「ああ。幾らでもしたい」
「そっか。素直なのは良いことだよね。そういえばさー、女神様のお兄さんに近づいていたツンデレ女神、罰を受けてるって言ったっけ?」
「なんか軽く聞いた気が」
「流石に女神様のお兄さんの近くにいると悪影響すぎるからってさ。女神様って家族のこと大好きなんだねーって思ったの」
「家族仲が良いのはいいことだよな」
「うん。そうだよねー」
あの結婚式の際に乱入したはた迷惑な異世界の女神は、神の世界できちんと罰を受けたようだ。そのことを聞いて、トリツィアはそうなんだーとしか思っていなかった。
神の世界のことは結局、神様にしか分からないものである。女神様が問題ないと言ったので、彼女はそれ以上何か口出しをしようなどとは思っていないのであった。
「ねぇ、オノファノは何人子供が欲しいー?」
ふと、思いついたかのようにトリツィアは告げる。
その言葉を聞いて、驚いているオノファノ。
「何を驚いているの? 私は子供は居ればいるだけいいかなーって。楽しそうだし。何人かいて、兄弟関係が仲良しだとなお良しだよね」
「そうだな。俺も……トリツィアとの子供が欲しい」
そういって、彼女と彼は笑いあう。
下級巫女とは名ばかりの圧倒的な巫女としての力を持つ少女と、その幼馴染にしておかしな少女を妻に持つ騎士の少年。
その二人の日常は、これからも続いてく。
なお、今世の記録には彼らのことはあまり残っていない。
……それは彼らがあくまでただの下級巫女と神殿騎士として一生涯を終えたからに他ならない。
もちろん、彼女と彼を知る者の多くは「そんな馬鹿な……」と口にすることだろう。
それだけ彼らは普通とは異なる生きざまを見せていたのだから。
彼女と彼が、人としての寿命を終える時までずっと交流を持ち続けたのである。
そして女神様は、その友人であった少女の子孫たちのことを見守り続けたのだと言われている。
「昔ね、私には人間の友人がいたのよ。種族が違うからこそ、もう話すことも出来ないけれどとても大切なお友達だわ。きっと私は一生彼女のことも、その夫であった男性のことも覚えているわ」
後に女神様は、神界でもそんなことを語っていた。
下級巫女と神殿騎士として生きた彼らの名は、下界の人々ではなく――神界で語られ続けるのであった。
こちらで完結になります。
今作はあまり深く考えずに好きに書こうと割と見切り発車で進めたものになります。
トリツィアが好き勝手生きている様を楽しんでいただけたら嬉しいです。
元々、結婚式まで書いたら一旦完結させようと思っていたのでこのような形で終わりになります。
気が向いたらまた続き書くかもしれませんが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
ここまで読んでいただきありがとうございます。感想などいただけたら嬉しいです。
2025年5月11日 池中織奈




