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下級巫女です!!  作者: 池中織奈


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かくして幸せな結婚式は行われるのです ⑥

5/10 四話目






「ト、トリツィアよ、先ほどの方は……」

「気にしないで大丈夫ですよー」

「いや、しかし……」

「気にしちゃだめです! あれは見なかったことにしましょう?」




 なんとかイドブが突っ込みを入れようとしたが、トリツィアに笑顔で流されることになった。

 彼女は他の者にも有無を言わさぬ笑顔で、にこにこしている。



 こうして結婚式に参列者としている者達は、彼女という存在を少なからず知っている。トリツィアがこれだけの態度をしているのならば、聞かない方がいいのだろう……ということは察することが出来るのである。




 トリツィアとオノファノのやらかすこと全てを知ろうとすれば、それは深淵をのぞくようなもの。下手に関わってしまえば、大変な事態になってしまうということはよく分かっている。

 イドブなどの昔から彼女を知る者だって、トリツィア達が様々なことを人知れずやらかしていることも知っている。



 だからこそ結婚式というお祝いの場で、わざわざそのことを追求しようとする者は居なかった。



 それからはただ幸せな結婚式が進んだ。

 平民同士の結婚式なので、そこまで大規模なものではない。



 式を終えた後は、楽しく皆で食事を摂ってわちゃわちゃしている。

 参列者がそれはもうすごい顔ぶれなのもあり、あまり騒ぎにならないようにと配慮はされている。

 あくまでただの下級巫女と神殿騎士と本人たちは言い張っているので、余計な干渉を受けたくないと思っているのであった。







「トリツィアの弟か。確かに似ているな」

「あなたは戦神の加護を持っていると噂のゲリーノ殿下ですね? 姉さん達から話は聞いてます。良かったら我が家と交易をしませんか?」




 その場で加護持ち王子と噂のゲリーノと、トリツィアの弟であるルクルィアはそんな風に交渉を進めていたり……。






「魔王と魔神と、神の加護を持つ者と、勇者に『ウテナ』。本当に意味が分からないけれども、それがトリツィアさんらしい」

「わおん」



 巫女姫の言葉を聞きながらマオとジンは鳴き声をあげる。

 このような交流をしているのはなかなか見かけない光景だろう。








「勇者様は魔物討伐に力を入れているのだよな。どうだ?」

「そうですね、俺は――」



 王子であるジャスタと勇者であるヒフリーが交流を深めている。

 







 それでいてこの場には皆は感じ取れていないが、精霊の姿もある。精霊たちは女神様と友人であるトリツィアがの結婚式を喜んでいるようである。






『トリツィアの結婚式、とても素敵だねぇ』

『人間ってなんで結婚するんだろう? 不思議ー』





 精霊たちの声はトリツィアと、この場を見守っている神々にしか聞こえていない。




『トリツィア、結婚おめでとう。異世界の神があなたの結婚式を邪魔してしまってごめんなさいね。こっちでちゃんと後始末をつけるから。それとこの後は、そのまま新居に向かうのよね? 今日は……流石に初夜の邪魔はしたくないから、後日お邪魔するわね』




 トリツィアには精霊たちの楽しそうな声と、女神様の声だけが響いている。

 ――その様子を見ながら、トリツィアはただ穏やかに、幸せそうに笑みを浮かべる。







「ねぇ、オノファノ。後日、女神様が遊びに来るって。楽しみだね」

「そうだな。女神様が来るなら、ちゃんと準備しておかないと」

「そうだねー。でも私達が女神様をもてなしたいって気持ちがあれば、それで許してくれると思うよー」



 にこにこしながら、軽い調子でトリツィアはそう告げる。

 当たり前のように女神様の来訪の予定を告げる新婦を、新郎であるオノファノは受け入れる。



 これから彼はトリツィアの夫という立場になったので、神々と関わることも増えていくことだろう。

 そんな予感を、オノファノはしている。




 彼は精霊の声も聞けないし、神を前にすれば正気では居られない。そういう、彼女とは異なる部分も当然多い。

 だけれどもオノファノは、女神様の友人という立場であり、普通ではないことを起こし続けるだろう彼女のことを受け入れている。




「じゃあ、あんまり気負わずにおもてなしの食べ物でも選ぶよ」

「うん。そうしてー。オノファノはこれからも女神様と一緒に話すことも増えていくだろうから、慣れてほしいなぁ」



 にこにこと、彼女は笑った。




「そうだな。……すぐには正直言って無理かもしれないけれど、そのうち慣れるようにする」

「うん。全然急ぎではないからねー。私達は結婚したばかりで、これから長い時間があるんだから」



 そう告げるトリツィアは、これからの将来――ずっとオノファノといることを疑っていない。

 彼女は、そういう少女なのである。どこまでも楽観的で、明るくて、マリッジブルーなど全く感じさせない。





「そうだな。――改めて、トリツィア」

「なぁに?」



 花嫁衣裳のまま、首をかしげるトリツィア。

 柔らかい表情で問いかけるトリツィアに、彼は告げる。






「俺はトリツィアのことを、愛している。だから、これからよろしく、俺の奥さん」

「ふふっ。うん、これからよろしくねー。旦那さん」


 そう言って二人は笑いあい、その後は参列者たちと共にまた会話を弾ませるのであった。




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