面倒な話が舞い込んできたようです ⑤
勇者であるヒフリーはそれはもう最近、活躍している。
危険だとされる魔物の噂を聞きつけたり、要請を受ければ他国にだって赴き、魔物を討伐しているようである。
たまにトリツィアとオノファノに会いに来るが、日に日に忙しくなっているようだ。
とはいえ、周りから勇者だともてはやされていても、ヒフリーのトリツィアとオノファノに対する態度は全く変わらないものであるが。
『ええ。とても頑張っていると神界でも噂になっているわ』
(神様の間でも噂になっているなんてすごいですね)
『神の力が関わりある人間は、特に神界でも噂になるもの。それに頑張っている存在のことを、私達は見ているもの』
(そうなんですねー。ヒフリーも噂されていると知れば嬉しいでしょうね)
トリツィアは神様の間でヒフリーが勇者として噂になっていることを喜ばしいことだと思っている。本人が勇者として頑張ろうとしているから、そのことを応援したいと思っている。それに時折、トリツィアに強くしてほしいと顔を出す。
その時はトリツィアとオノファノで模擬戦をしたりしているわけである。正直言って勇者であるヒフリーよりも、ただの下級巫女と神殿騎士であるトリツィアとオノファノの方が断然暇である。そういうわけで来てくれた際はそういうことをしている。
とはいえ、ヒフリーはとても目立つ存在なのでトリツィアとオノファノに戦う術を教わっている事実は外へと広まらないようにはしてもらっている。
『ふふっ、トリツィアから伝えてもらっても構わないわよ。それで彼のやる気が出るのならばそれはそれで良いことだもの。どうやら沢山の求婚者の方が居るみたいだわ』
(求婚者? ヒフリーはそんなにモテモテなのですか?)
『そうよ。驚くほどに女性に好かれているようだわ。それに女癖が悪いということもなさそうだもの。勇者とかになると、旅をする中で様々な女性に手を出すような質の悪い方向に進んでしまうこともあるのよ。だからその点はヒフリーは安心して見れるわね』
(そんなにたくさんの人達と特別に仲良くなって、何が楽しいんでしょうねー?)
トリツィアは女神様と会話を交わしながら、とても不思議そうな顔をしている。そういうことで楽しいと思う気持ちはトリツィアにはよく分からないのである。確かにトリツィアが知る限り、お金と権力を持っている存在にはそういう噂が付きまとったりする。
トリツィアは別に誰かの自由を妨げたり、嫌がることをしていないのならばそう言うことに関しては好きにすればいいとは思っている。
『私にもわからないわ。私はクドンだけでいいもの。トリツィア、恋というのは良いものなのよ? 誰かを好きになる気持ちは、とても素敵なものなの』
(そうなんですねー。女神様の幸せそうな様子を見ていると、確かにいいものなんだろうなっては思いますよ)
『ふふっ、そうよね? 私はね、トリツィア。あなたが望まない結婚をさせられたりするのは嫌だわ。それだとあなたにとって良いものではないもの。トリツィアはね、自由にのびのびと、好きなように過ごしながら生きているのが一番輝いているもの』
(そうですねー。私もそれは嫌ですね。私個人としても凄く嫌ですし、女神様の嫌がることはしたくないですしー)
『でも私がこの人がいいんじゃない? といったとしても、トリツィアが嫌だったらちゃんと断るのよ?』
(もちろんですよー。私は無理な時は無理ってはっきりいいます! 友達になるぐらいだったら女神様に言われたら仲良くしますけど。あ、それでもやっぱり話してみて合わないなとかだったら相談しますよー)
『ええ。そうしてちょうだい』
トリツィアと女神様は、そうして楽し気に会話を続けている。
――その最中に、図書室の扉が開く。トリツィアがそちらに視線を向けると、そこにはオノファノの姿があった。
「オノファノ、どうしたの?」
トリツィアは不思議そうな顔をして、問いかける。というのもオノファノの表情がいつもとは違うように見えたからである。幼なじみとして、トリツィアはオノファノのことをよく知っている。
いつもオノファノは余裕があるというか、あまり焦ったりすることはなくて基本的にはトリツィアに向かって笑みを浮かべている。
それが少し様子がおかしいのである。
「あのさ、トリツィア」
「うん、何?」
「トリツィアは、王子殿下からの申し出は嫌だろう? 俺も嫌だ」
「うん。嫌だ。女神様とも話していたけれど、結婚とかの話はやだよねー」
「俺もトリツィアのそういう姿は見たくない。……トリツィアがそういうのを本当に望んでいるなら別だけど」
「あははっ、私がそれを嫌がることはオノファノならよく知っているでしょ?」
トリツィアがそう言って笑うと、オノファノも笑った。その後に、真剣な表情に変わる。
「それでさ……」
「うん」
「その、下手な結婚を言われるぐらいなら、その前にトリツィアが既婚者になればいいんじゃないかと」
「うん? 何がいいたいの?」
トリツィアは訳が分からないといった様子である。そんなトリツィアに、オノファノは意を決したように言った。
「お、俺と結婚しないか」
その言葉にトリツィアが返事をする前に、その脳内では――、
『きゃあああ!! ふふっ、告白すっ飛ばしてプロポーズ? いいじゃないの』
と大興奮の女神様の声が響いていた。




