下級巫女と、女神の寵愛を得ているという少女の話 ⑰
「巫女姫様、お疲れ様です」
やってきた巫女姫に、トリツィアはにこにこと微笑みかける。
オノファノも労わるように飲み物を差し出す。その二人に迎えられ、巫女姫はほっとしたように笑った。
「ありがとうございます。トリツィアさん、オノファノさん」
そう言いながら、ソファに腰かける巫女姫。そんな巫女姫ににこにこしながら、トリツィアは問いかける。
「巫女姫様、結局ジュダディさんどうなりました?」
「そうですね。一旦、罰として労役を課すことにはなっています。その期間に関しては彼女の働き次第にはなりますね……」
「なるほどー。労役かぁ。働かせて償わせるって感じですね。それで納得してもらえそうでしたー?」
トリツィアがそう問いかけると、巫女姫は少し疲れたような表情を浮かべていた。
やはり何かしら難航していたのだろう。トリツィアは大変そうだなぁと他人事である。
「そうですね……。なんというか、ソーニミア様の降臨により騒ぎ立てる者はいるのですよ。ソーニミア様の神託を信じず、あの少女を担ぎ上げようとしていた者までそうなのですから本当に……呆れていますわ。私に許しを請う者が沢山いましたが、私ではなく……ソーニミア様に許しを請うべきしょう」
「そうですねー。私もそう思います。女神様はちゃんと祈りを捧げて、許しを請うたらそれで許してくださるはずなんですけどね」
トリツィアは巫女姫の言葉に、そんなことを口にする。
自分のやってしまったことに反省をするのならば巫女姫にではなく、女神様に祈るべきである。ただこうやって巫女姫に許しを請うのは――誰かから言葉で、許すと言ってほしいからだろう。
女神の言葉は普通の人達は聞くことなど出来ない。神託を受けるだけの器がなければそれを受けることなど出来ないのだから。
「それも伝えてあります。あとはそうですね、今回の一件は……ある意味、良いこともありました。もちろん、こういうことはあまり起きない方がずっといいですけれど……」
「良いことですか?」
「はい。このことで私に意見をしようとしていた者達の声が小さくなりました。まだ若い私が巫女姫という立場に居ることに思う所がありな方はそれなりにいますから」
「へぇ……。巫女姫様は、とっても凄いのにね。寧ろこういう時にちゃんと対応してくれていて、凄いなと思いますよ」
トリツィアは巫女姫に向かって、そう言って微笑む。彼女からしてみると、巫女姫はとても頑張り屋さんで、凄い子なのだ。
それこそ巫女としての力に関してはトリツィアの方がずっと上だが、それでも巫女姫のことは尊敬しているのだ。
「そういう人たちや本当に面倒な相手が居たらすぐに私に言ってくださいね。あと女神様も見守ってますから」
「ありがとうございます。……あの女神の寵愛を語った方に関してはともかく、トリツィアさんに関する問い合わせが多かったです」
「まぁ、あれだけ思いっきり女神様と仲良しって示しましたからねー。女神様との共同作業はとても楽しかったです」
巫女姫は何か考え込んだような様子だ。そんな巫女姫とは対称的にトリツィアは普段通りである。
その隣でオノファノは黙って話を聞いている。
「トリツィアさんの負担になっていなくて本当に良かったです。ただお礼はきちんとお渡ししますね。トリツィアさんと、それにオノファノさんのおかげで助かったので」
「……俺は何もしてませんが」
「いえ、オノファノさんはいつもトリツィアさんについてこうして力になってくださっているでしょう。トリツィアさんのケアも含めて。なのでお礼はします」
オノファノは巫女姫の言葉に断るが、押し切られている。
「私も特に要らないですけどねー。巫女姫様は気にしなくても全然いいのですよ。私は楽しんでましたし」
「それは分かっていますが、それでもやっぱり渡してはおきたいです」
「そうですかー。なら、もらいますね。でも無茶はしない範囲でお願いします。あとは……今後も私とか女神様に対する問い合わせあるかもですけれど、聞き流してもらっていいですからね。知らぬふりをすべきです」
「ありがとうございます。しかしまたこのような機会があったら頼むかもしれませんが」
「あんまりないと思いますよー。今回は女神様曰く、神のことが少なからず関わりがあったので。だからこそ女神様が力を貸してくれた一面もありますから。でも本当にそういうのが必要になったら少なくとも私はその時、嫌じゃなかったら来ますよー」
巫女姫の懸念するような声に、トリツィアはそう答える。
巫女姫は彼女の言葉を聞いて、ほっとしたような様子を見せている。
「よし、じゃあ聞きたいことが聞けたし、私帰りますねー。また何かあったら連絡ください! 何か面倒事があったら、あんまり関わりたくはないけれど何かあったらきますし」
「もう行くんですね……」
「ずっとここに居るのも騒がれそうですしねー。だからまた会いましょうね。巫女姫様」
「はい。また」
そうして軽い調子で、トリツィアはオノファノを連れてその場を後にするのであった。
――そうして女神の寵愛を受けているという少女の騒動は終わった。




