下級巫女と、女神の寵愛を得ているという少女の話 ⑯
「疲れたけれど、楽しかったー!」
トリツィアはそう言って、ソファに体を投げ出し寝転がっている。
場所は談話室の中。パーティーが終わって間もなくたった時間帯である。
……ちなみにあのパーティー会場に下り立った存在は、当然変装したトリツィアである。
女神様と一緒に楽しく遊んだトリツィアは、満足気な顔をしている。
「お疲れ様、トリツィア」
そんな労わりの言葉を口にするのは女神様の計らいでパーティーでの様子を見守っていたオノファノだ。渡された飲み物をトリツィアはごくりっと飲み干す。
「ありがとう! それにしても私、別人みたいじゃなかったー?」
「ああ。言われてなかったらトリツィアだって全く分からなかった」
幼なじみであるオノファノからしてみても、全く分からなかった。見た目もそうだが、それこそ声や雰囲気なども普段とは異なるものだったのだ。
女神様を下ろしているというのもあって、神秘的で……遠くにいる存在のようにそう感じてしまっていた。
だからこそこうして、いつも通りの能天気な彼女の様子を見てオノファノはほっとした様子を見せていた。
「なら、良かった。女神様との遊びが大成功ってことだもんね。それに私の正体は全然ばれてないみたいだし」
「凄い騒ぎだったけどな」
「うん。私のことを凄く探していたっぽいね」
「ああ。あのジュダディの処罰よりも、ずっとトリツィアのことを気にしていたみたいだからな」
「皆暇だねー。目の前のことを考えた方がずっといいのに。私は探されても出ないよ?」
「だよな。トリツィアが見つかるようなヘマはしないよな。でも巫女姫様がどうにかしていて良かったな」
「うん。巫女姫様、私達よりも年下なのに凄く頑張っている。私、頑張っている子は好きだなって思う!」
トリツィアはにこにこしながらオノファノに軽口を返す。
変装したトリツィアがパーティー会場を後にした時、それはもう大騒ぎになっていた。倒れ伏しているジュダディへの罵詈雑言も凄まじいものだった。確かに女神の寵愛を得ているなどと嘘を言っていたジュダディは当然悪い。利用されていたにしても、その前に立ち止まれる瞬間はあったはずなのだから。
ただしもちろんのことだが、神託を無視した周りも悪い。女神ソーニミアの言葉を無視するなど、信者としてはやってはいけないことである。すくなくともその事実はもう既に周りに広まってしまっている。その事実があるだけでも、今の立場を保持は出来ないだろう。
そういうこともあるから、自分のせいではなくジュダディのせいにしたのが本音な者達も多い。特にジュダディのことをもてはやしていた者達はジュダディを断罪することで自分の罪を軽くしようとしているのである。
トリツィアとオノファノからしてみれば、彼らの未来などどうでもいいことだが……周りからしてみると重要なことなのであった。
それに関しては巫女姫がそのパーティーの場に出て、事をおさめていた。そのことで巫女姫の権威は回復したともいえる。
「そうだな。本当によく頑張っている」
「だよね」
「そういえば着ていたものとかどうしたんだ?」
「女神様に回収してもらったよー。だって、あれね、女神様以外の神様が作ってくれたものとか盛りだくさんなの。正直それを全て持っていると面倒だろうって。正体ばれる可能性もあるし、こういうのを持っていたら大変なことになるしねー」
「あー。それもそうか」
「うん。でも何か同じようなことがやりたいってなったら女神様が貸してくれるかなと思うけれど」
そんな風に告げるトリツィアは、パーティーの場に変装して出ていき、そして女神様と一緒に遊べたことは楽しかったのだろう。
もし次に同じ機会があり、女神様に望まれたのならばまた行ってもいいとそう思っているようだ。
「そうか。まぁ、トリツィアが楽しかったなら良かった。それで結局どうなるか……」
「んー。まだ分からないかな。ただ巫女姫様は悪いようにはしないって言ってたよ。流石にジュダディさんにだけ罪を押し付けるのも違うしね。そのあたりも女神様の意向をちゃんと伝えたから大丈夫だとは思う。今もその対応してくれているから、私達待っているわけだし」
「なんだか、周りが勝手にグタグタ言ってそうだよな」
「うん。まぁ、その様子は精霊に時々確認してもらっているけれど、私のこととか女神様のこととかを上手く使ってちゃんと対応をしてくれているみたい」
トリツィアは適度に巫女姫のことが気になり、精霊にきちんと状況確認はしてもらっている。
その結果巫女姫は文句を言う人々の一つ一つに返答し、きちんとした対応を進めているらしかった。
トリツィアはそういうことが出来る巫女姫のことを改めて凄いなと思ってならない。
彼女自身は巫女としての力はすさまじいもので、物理で相手をどうにかすることならば幾らでも出来る。とはいえ、巫女姫が行っているようなことは苦手である。
(巫女姫様が戻ってきたら結果を聞きつつ、労わろう)
トリツィアはそんなことを考えていた。
――そしてそれからしばらくして、巫女姫がその場にやってくる。




