下級巫女と、女神の寵愛を得ているという少女の話 ⑬
その場は多くの人々で溢れかえっている。
豪華な装飾品があまたあり、シャンデリアが輝いている。立食式のパーティーで、中心部ではダンスも踊れるようなものになっているようだ。
ワイングラスを片手に談笑を交わしているのは、王侯貴族達や所謂上級巫女と呼ばれる者達である。
トリツィアは下級巫女の地位しか持ち合わせていないのでこういう場所に来たことはなかった。
「なんだかすごい場違い感ありますねー。此処に私が変装して出るんです?」
トリツィアはそんなことを言いながら、のほほんとした表情である。
ちなみにこうやってパーティーの情報を視覚的に確認出来ているのは、女神様が見せてくれているからだ。
彼女はこんな場に自分が変装して出ることになるのかと、少し現実味のない感覚にはなっている。
それもそのはずで普段のトリツィアからすると見たことのないものばかりなのだ。何もかも目新しいので、それが楽しくなっていたりもする。
「確かに凄い光景だな。……トリツィア、大丈夫か?」
隣でオノファノは少し心配そうだ。
オノファノも平民の出で、神殿に仕えている騎士であるとはいえ基本的には下級巫女であるトリツィアの専属である。大神殿側からもトリツィアのことをどうにか出来るのは彼だけだと認識されている。
そういうわけで当然、トリツィアがこういう場所に来なければこんな場所に来ることはなかっただろう。
彼女が居る場所に、彼が居る。それが当たり前になっているのだ。
「んー。まぁ、問題ないかな。女神様との共同作業だしね。それに何かあったら逃亡も出来るだろうし」
「それもそうか。本当にやばかったら逃げたらいいしな」
「うん。そう」
トリツィアがにこにこしながら問題ないと笑えば、オノファノも安心した様子を見せる。
『あらあらオノファノは心配性ね。それだけトリツィアのことを大切にしているという証よね。良いものだわ。トリツィアの変装は完璧だったから、本当に何も心配をしなくていいのよ』
(女神様、なんだか今回の変装以外で楽しんでます?)
『そうよ。私はトリツィアとオノファノが仲良くしているのを見るのがとても好きなの。このままもっと仲良くなればいいなと思っているから。トリツィアと変装して遊ぶことはとても楽しいけれど、ただこうしてあなたたちが楽しそうにしてくれているだけで同じぐらい楽しいのよ』
(そうですかー。女神様が楽しんでくれているのならば幾らでもオノファノとは仲良くしますよ。私もオノファノと話すのは好きですしね)
『ふふっ、そうやって自然体で仲良くしているのが本当に素敵なことなの。いつものぞくと仲良さそうにしてくれているから見ていて嬉しくなるわ』
女神様はトリツィアのことを大切に思っているので、そういう様子を見ているだけで嬉しくて仕方がない様子だ。
「トリツィア、女神様はなんて?」
オノファノはトリツィアが無言になったのを見て、女神様と話していると察しているのかそう問いかける。
「心配しなくていいよーって」
「そうか。なら良かった。……それにしても神託で女神様の寵愛を受けた者ではないと言われているのに、当たり前みたいに囲まれているな」
「そうだね。神託を信じ切っていないだなんてびっくりだよね。女神様の神託って凄く重要なものだってされているはずなのに。私は女神様からの神託を疑うなんて信じられないもん」
トリツィアは何とも言えない表情でそう告げる。
彼女と彼には、ジュダディが人に囲まれて――当たり前のようにその状況を謳歌しているのを見てある意味凄いなと思っているのであった。
神託が下されているという状況下で、当たり前のように……今まで通り女神様の寵愛を受けているとそう豪語しているのはそれだけの理由があるのだろう。
(やっぱり女神様の言っていた神の座から降りた存在が何かしらしているからなのかなぁ。そういうのが抜きになればジュダディさんも違う姿を見せたりするのかなぁ)
今のジュダディの姿が普段の姿なのか、こういう状況だからこその姿なのかトリツィアには判断はつかない。
だからそういうのを抜きにしたらジュダディはどんな暮らしをしていたのだろうかとそんなことを思わず考えてしまっていた。
さて、そうやってしばらくパーティーの様子を見守っている間にパーティーはどんどん進んでいく。
その間にパーティーで出ているものと同じ食事や飲み物を巫女姫の計らいで頂いている。口にして、トリツィアは嬉しそうに笑っていた。
「トリツィア、パーティーに乱入する前にちゃんと身だしなみ整えておけよ」
「うん。そうするよー。仮面被るし、基本は問題ないけどね! よしっ、そろそろかなーって感じだからちょっと行ってくるね!」
トリツィアはオノファノの言葉に元気よく答えると、そのまま立ち上がる。
『あら、じゃあ姿を変えるわね。着るものとかもすぐに着せるわ』
(ありがとうございます、女神様!)
――そしてそんなやりとりをした次の瞬間には、トリツィアの姿は女神様の力で変化していた。




