下級巫女と、女神の寵愛を得ているという少女の話 ⑫
さて、トリツィアと女神様による本物を見せつけよう計画に関してだが、一番効果的な場で見せるのが良いという結論に至った。
あまりにも人目がない所でやっても、正直言って意味がない。周りが把握していなければ握りつぶされるということもあり得る。
トリツィアはどうせやるのならば、最も効果的に、そして何よりも女神様が楽しめるような形でやるべきだと思っている。
彼女は女神様に重い信仰心を抱いているので、何よりも女神様の感情が重要である。どれだけやるべきと言われていることであっても、女神様が嫌がることならばそれを行うことはしないだろう。
だが、今回は女神様が楽しそうに協力する気に満ちているので、トリツィアもやる気に満ち溢れている。
――そして巫女姫にも相談した上で、それを行うのは一週間後に行われるパーティーでということになった。
そのパーティーは国内外の王族貴族が集まる重要な場である。
すっかりジュダディに惚れこんでいる者達が、神託が下されたにも関わらず大々的にジュダディをソーニミアが寵愛する少女としてさらに広めようとしているのだ。
もしかしたら彼らにとってはそれが真実でも嘘でも構わないと思っているのかもしれない。自分が惹かれている少女がそうするべきと言っているからと深く考えていない可能性さえある。
絶対だと信じている存在の言うことをただ聞くだけという状況はとても楽である。自分の意思で考え、そしてその結果とんでもないことになってしまったら責任を負わなければならない。だけれども全てを人にゆだねるのならばそんな必要などもないのだ。
「なんだかこのまま色々と勢力図とか変わりそうー」
「トリツィア、準備はいいのか?」
変装をして女神様をパーティーの場で降ろす。それは人にとっては一大事であり、その当事者は準備のために忙しくしているのが当然だろう。しかし、トリツィアはいつも通りである。
これからそんな大事を起こそうとしているなど全く分からない。いつも通り平然として、お菓子をつまみながらオノファノと会話を交わしている。
「私の変装に関しては女神様が色々やってくれるって言ってたからね。あと衣装とか、仮面とかも女神様が張り切って用意するって言ってたの。私は頑張って演技をする練習を女神様と時間があるときにやっているんだよー」
「……そうか。女神様の準備したものがそれだけ使われるのか」
「うん。用途を終えたら女神様が回収するって言ってた。なんかね、やっぱり女神様が用意したものとかだと人の手に渡ると面倒なことになりそうだからって。あとはジュダディさんに影響を与えている神の座から降りた人の本体が出てきたらその時はその時だって言ってたよー」
「あー……そういう本体が出てくる可能性があるのか」
「うん。というか、私が女神様を降ろしたら出るんじゃないかなぁ。事情は女神様も私には話してくれなかったけれど、ジュダディさんが女神様の寵愛を受けているって言っているのって何かあるだろうし」
彼女はそう口にしながら、パクパクとお菓子を食べている。
口にしていることは明らかに普通ではないのだが、あくまでトリツィアにとっては女神様に望まれたから楽しんでやろうとしていることでしかなくそれ以上の特別な感情はない。そもそも失敗したとしても女神様は彼女を咎めることはないだろう。だから気負うこともない。
女神様からの頼みをこれだけ軽く受けて、こなそうとするのなど彼女ぐらいだろう。
「危険はないんだよな?」
「あははっ、私のことを心配しているの? 大丈夫だよ。今回は神様じゃなくなった人が関わっているから、ちゃんと私がどうにも出来なかったら女神様がどうにかしてくれるって言ってたし。それに女神様が言うには私ならどうにでも出来るんじゃないかって」
「そうか。ならいいが」
「女神様は私に嘘はつかないからね。それに私だけで無理ならオノファノも一緒に対処してくれたらきっと大丈夫だよ」
楽観的なことを口にしてにこにこと微笑むトリツィア。そうして話していると、トリツィアの頭に女神様の声が響いた。
『トリツィア、オノファノと仲良く話しているところごめんなさいね』
(大丈夫ですよー)
『演技の練習しましょう。ついでにオノファノに見てもらうのもありじゃないかしら』
(そうですねー。他の人から見て演技をした私がどう見えるかは確認してもいいかもです)
彼女は脳内でそんな会話を交わしたかと思えば、オノファノの方を向いて告げる。
「ねぇ、オノファノ。女神様と演技の練習をするから、オノファノも意見頂戴! どういう風にしたら神秘的になるかっていうのが欲しいの」
「いいけど、俺の意見なんて参考になるか……?」
「うん! ちょっとでも気になったことを言ってくれればいいから」
トリツィアがそう言って押し切れば、オノファノは結局頷くのであった。それからトリツィアは如何に神秘的に見える声色を出せるか、演技の練習を真面目にし続けるのであった。




