魔族が暴れているらしい ②
「トリツィア、巫女姫様から至急の手紙が届いている。すぐに確認して、返答をするように」
トリツィアが神官長の部屋へと向かうと、間髪入れずにそう言われた。
険しい顔をしているのを見るに、よっぽどのことだろうとは予想が出来る。とはいえ、トリツィアはそんなイドブの表情を見てもいつも通りのほほんとしている。
手紙を早速トリツィアは読んでみる。
それを見て、少し驚いた表情を浮かべる。
「なるほど! ちょっと色々確認してきてから、返事しますねー」
彼女は元気よくそう言ったかと思うと、そのまま一旦神官長の部屋から去っていく。
その後ろ姿を見ながらイドブは「……何か心当たりがあるのだろうか」と顔をしかめている。
イドブからしてみると問題が早急に解決しそうなことは良いことだと思っているが、これからトリツィアが何を起こすのだろうかと心配はしているのだろう。
さて、神官長の部屋を後にしたトリツィアは大神殿の廊下を元気よく歩いている。きょろきょろとあたりを見渡しながら何かを探す様子である。
「トリツィアさん、何か探しているの?」
「オノファノ、何処にいるか分かりますー?」
「さっき、マオとジンを連れて庭の方に行ってましたよ」
顔見知りの巫女から声をかけられて、そんな会話を交わした後、また歩き出すトリツィア。
彼女が庭の方へと向かえば、そこにはオノファノ、マオ、ジンの三人がいる。
「マオ、ジン!! ちょっと、こっち来て!!」
彼女が元気よく声をかけると、すぐさまマオとジンが近寄ってくる。二匹にとってはトリツィアの言葉は絶対である。
わざわざ呼ばれるなんて、何かあったのだろうかと慌てた様子である。
「くぅううん?」
「わふぅ?」
魔王と魔神という立場であるものの、大神殿の庭という目立つ場所だと人が来るかもしれないからとただのペットのふりをしている。
「一旦、部屋行こうか。ちょっと話があるの。オノファノも一緒、来て」
トリツィアがそう言うと、一人と二匹は大人しく彼女についていった。そして周りに人がいない状況を作ると早速トリツィアは話を切り出した。
「魔族が暴れているらしいけれど、何か心当たりある? 魔王と魔神って立場なんだから関わってそうだなって」
そう、トリツィアが巫女姫からの手紙で知らされたのは各地で魔族の姿が見られるということである。
魔族というのは、魔王や魔神に連なる者として知られている。基本的に魔王が復活した時に、魔族の姿が多くみられているとは文献にも載っていることである。
巫女姫はトリツィアが魔王と魔神をペットにしていることを知っているため、こうして手紙での確認が来たのだろう。巫女姫からしてみればペットにしているのならば、もしかしたらトリツィアが人類に反旗を翻そうとしているのではないか、それかペットたちが勝手に行動をしているのではないかと心配しているのかもしれない。
トリツィアのような力を持つ存在を絶対に敵に回したくはないのだろう。
「魔族が暴れている……?」
「どういった魔族?」
「ん? どういった魔族かどうかは分からないよ。でももしかしたらマオとジンの知り合いとかが暴れている可能性ってあるかなって」
トリツィアがそう口にしながら二匹を見下ろすと、それぞれ反応を示す。考え込んだ様子を見せたマオとジン。
「……もしかしたら我が復活したのを感知して色々行っている可能性はある」
「同様だ。魔神である我の気配を感じ取って、復活を喜び、活動をしている可能性は十分にある」
マオとジンはそれぞれそう答える。
魔王や魔神である彼らの意思というのは関係なく、勝手に暴れているとあくまで主張しているようだ。
「ふぅん。でもその魔族たちがマオとジンのためにって行動している可能性はあるよね? そういう人たちにはちゃんと言い聞かせて、大人しくさせるようにしてほしいんだけど。このまま暴れられると凄く困るから」
彼女がそう口にすると、マオとジンはそれに逆らうわけにもいかずにこくこくと頷く。
「うんうん。ちゃんと対応をしてくれるなら、それで問題ないよ。もしそれでもおさまらないようなら私が全員ぶっ飛ばすよ」
にこにこしながらそんな宣言をするトリツィア。
マオとジンは彼女が有言実行であるということを知っている。
「マオとジンのことは縛り付けてはいるから、勝手な行動は出来ないと思うけど……もし暴れている魔族たちと一緒になって暴れるなら、躾けるからね? それでもだめなら永久に閉じ込めちゃうからね?」
そんなことを言いながら、マオとジンの頭を思いっきりトリツィアは撫でている。彼女の恐ろしさを知っているので、マオとジンはこくこくと頷くのであった。
それを見て満足したトリツィアは、ペットたちが対応をする旨を巫女姫への手紙に記載するのだった。もし何かあればトリツィア自身が動くこともきちんとそこには書いてある。それを読んだ巫女姫はほっとした様子を見せるのだった。




