下級巫女は、周りの人々の度肝を抜く ②
「トリツィアよ、周辺の街を魔物が襲おうとしているらしい。倒してきてくれないか」
神官長であるイドブからトリツィアがそんなことを言われたのは、ゲリーノが帰ってしばらくしてからである。
「魔物?」
「ああ。騎士達が対応をしているが、どうにも倒すことが難しいらしいのだ。私としてみてもこれ以上の被害が出る前に……倒せるものが倒した方がいいのではないかとそう思っているのだが、どうだ?」
イドブはトリツィアの異常性を全てではないが理解している。だからこそ、トリツィアが討伐しに向かった方がすぐに問題が解決するだろうという信頼があるのだろう。
だからこそそういう提案をしている。
とはいえ、無理強いをしようとはしない。トリツィア相手にそのような真似をすればただではすまないことを把握しているのだ。
「そうなんですねー。なら倒した方がいいですね。それにしてもそんなに強いんですか?」
トリツィアは不思議そうな顔をして、神官長へと問いかける。
「そうだな。とてつもない硬さで、素早く、中々倒せないようなのだ」
「へぇー」
トリツィアは本職の騎士でも倒せないのかと考えた様子である。
(それだけ強い魔物がいきなり現れるって何かあったのかな? それとも何かしらの大きな原因でもあったりするのかな? それにしても街の周辺だと、魔物がそこまで危険なので出てこないはずだけどさ。うん、その辺も一応調べとく? 自分の住んでいる街の周辺で暴れられても嫌だし)
トリツィアはそんなことを思考する。
「いいですよー。すぐいってきますね」
トリツィアはそう言い切って、すぐに飛び出していった。
ちなみに途中でオノファノも合流した。オノファノもトリツィアから魔物の話を聞くと、「じゃあすぐに倒しに行こう」と口にする。
彼らのフットワークは本当に軽い。
あまりにも軽すぎて、もしその発言を聞いているものが居れば……それが魔物を倒しに行く発言とは思えないだろう。
「美味しい魔物かなぁ?」
「どういう魔物か神官長から聞いていないのか?」
「うん。何か硬くて素早いってしか聞いてないよ。というか飛び出してきちゃったけれど、マオとジンも連れてきた方が良かったかな?」
「どっちでもいいんじゃないか?」
まるで散歩をするかのような、いつも通りの会話を行う。
移動中はずっと走っている。
魔物が現れたのは、あくまでトリツィア達の居る街から近い街。少しだけ距離がある。ゆっくりしているとさらなる犠牲者が出てしまうだろう。犠牲者が積み上げられるのは嫌だと思っているので、トリツィアとオノファノは急いだ。
――そして急いで向かった先で、トリツィアとオノファノは魔物を見かけた。
その魔物は、鉱石か何かのような銀色の体を持つ魔物だった。どこか人工的な雰囲気を持ち合わせている。普段トリツィアがよく見かけている毛皮を身に纏った魔物とはまた違う。
「なんか、美味しくなさそう?」
トリツィアはそんなことを呟きながら、じっとその魔物の事を見ている。
彼女にとって重要なのは、美味しいか美味しくないかの一点のようである。少しだけ残念そうな表情を浮かべている。
「トリツィア、美味しくなくても何かに使える魔物かもしれないだろう」
「まぁ、それもそうかもしれないけど。あ、でも素材になるのならば売ったらいいか。それで何か美味しいもの食べるのもありかなぁ。珍しいものを手に入れたら女神様も喜んでくれる気もするし」
「それもそうだけど、ああいう魔物の素材ならアクセサリーとかにも出来るかもしれないぞ? トリツィアは興味がないだろうけれど女神様はそういうの興味ないのか?」
「あー、女神様はね、そういうの好きだと思うよ! クドン様からもらったものとか大切にしているんだよ! 女神様って、凄く愛情深いし、クドン様と仲良しなの。私はあんまりそういうアクセサリーとかはあげたことないからあげてもいいかもなぁ。私とお揃いにしたら女神様も喜んでくれるかもー」
トリツィアはオノファノの言葉を聞いて、にこにことして笑っている。
彼女はいつも女神様と親しくしていて、一緒に女子会が出来るようになってからはいつも楽しそうにしている。誰よりも女神様と交流を持っている人間ではあると言える。それでもまだまだ一緒に行う新しいことは盛りだくさんである。
(女神様とお揃いにすると私も嬉しいもんね。私の好みで作っちゃっていいかな? 私ってあんまりそういうのは身に着けないしなぁ。でも女神様ならどんなものでも喜んでくれるかなって思うし)
トリツィアはそう考えると、やる気で満ち溢れた。
目の前にいる魔物は美味しくなさそうだからと少し気分が下がったが、それでも女神様へプレゼントを渡せると思うと嬉しくなった。
そしてやる気に満ち溢れたトリツィアは、その魔物へととびかかった。その魔物は事前情報で聞いていた通り、随分と硬かった。他の魔物よりも丈夫で、少しだけ時間はかかった。
だけれどもトリツィアはその魔物をいとも簡単に仕留めるのであった。




