加護持ち王子と、下級巫女 ⑥
「そうですよ。まだ暴れます? 認めないと言って暴れるのならばずっと意識を失わせるよ」
トリツィアは意識を取り戻したゲリーノに対しても相変わらずの様子である。
彼女としてみればこれ以上暴れるようなら、そのまま意識を失わさせ続けるだけだ。
「……暴れないから、解放してもらえないか? それに俺が暴れたところでお前はどうにでも出来るだろう」
「うん。すぐに取り押さえて、どうにでもしますよ。一先ず、解放はしますね。私のことをどうにか出来たとしても、私の味方沢山いますからねー。だから、下手なことは考えない方がいいですよ?」
トリツィアは周りの人たちに対してそれだけの信頼感情を抱いている。
彼女はそれだけ周りに恵まれているのだ。
彼女の言葉にゲリーノは驚いた表情を浮かべる。
「……お前が倒れたとしても、別のものがどうにかするとでも?」
「はい。例えば此処にいるオノファノも、とても強いんですよ」
「オノファノ?」
「少し話に出した私の幼なじみです。とても強いので、王子様にとってもどうすることも出来ないと思いますよ」
にっこりと笑って彼女はそう言い切る。
その言葉を聞いて、ゲリーノはようやくオノファノのことを認識したらしい。これまで彼女のことだけを見ており、他の者達のことを視界に留めても居なかったようだ。
「この男が、お前の幼なじみ?」
怪訝そうな顔をしているのは、オノファノがトリツィア同様、強者に見えなかったからかもしれない。
オノファノも彼女同様にいつだって自然体である。王族の傍に居たとしても、変わらない。
「初めまして。ゲリーノ殿下。紹介された通り、私はトリツィアの幼なじみであるオノファノです。よろしくお願いします」
穏やかな笑みを浮かべながら、オノファノは告げる。
だけれどもオノファノの目は笑っていない。それだけ彼がゲリーノに対して良い感情を抱いていない証だろう。
「ああ。……お前も、トリツィアのように強いのか?」
「オノファノは強いですよー。いつも私の遊びについていってくれますしね」
ゲリーノの問いかけに、オノファノが答えるよりも前にトリツィアが答える。
「――オノファノ、お前の力も確認したい」
そう言い放つゲリーノのことを、トリツィアは戦闘狂だなと考えている。
「オノファノ、戦う? 嫌なら断るよー」
「戦うことに関しては問題はない」
「なら、そうしようかぁ。でも王子様、その前に確認してからでいいです?」
トリツィアはそう言って、いまだ拘束されたままのゲリーノに声をかける。
「オノファノが勝ったら、私とオノファノの意見は尊重してもらえると嬉しいですかね。特に望むことはないですけど、勝手されるのは嫌なので」
「……いいだろう。自分より強者に従うのは当然のことだ」
ゲリーノはこんな時にまで交換条件がその程度であることに驚く。
一国の王子を、それも加護持ちである存在を好きに出来る状態であるというのならばそれだけ大きな野望を口にするのが普通である。しかしトリツィアはそういうことをする気は全くないのだ。ただ自分たちが好きなように生きていくために条件を言っているだけである。
「私からも一ついいでしょうか」
「……なんだ?」
「私が勝った暁には、トリツィアに必要以上に近づかないでください。私が傍に居る時ならともかく、それ以外で戯言を口にされてもこまりますから」
……一応、丁寧語ではあるが中々棘のある発言をオノファノはしていた。
ゲリーノのような存在がトリツィアに近づくのを良しと思っていないのだろうことがよく分かる。
「……お前が勝ったならな。俺が勝ったなら話は別だ」
「それで構いません」
オノファノは挑発するように笑った。
……ちなみにその様子を見ていた神官長はハラハラした様子だったが、ゲリーノが気分を害した様子はなさそうなので見守っているようだ。あとは下手に神官長が口を開くと逆に話しがこじれそうだと感じ取っているのだろう。
神官長はトリツィアやオノファノで普通とは異なる存在への対応を慣れているのであった。
それからオノファノとゲリーノで模擬戦が行われることになった。
もちろん、先に万全の状態であるのが望ましいためトリツィアが万全の状態にまで回復をさせていた。
(オノファノと王子様の戦い楽しみだなぁ。オノファノなら勝てるだろうけれど、もし流石に死にかけるとかになったら止めないとなぁ)
トリツィアは楽しそうに笑いながら、そのオノファノとゲリーノが向き合う様子を楽しそうに見ている。
『あらあら!! これはトリツィアを賭けた男同士の戦い的な何かかしら? なんて心が躍るのかしら!!』
(女神様、楽しそうですねー。でも私を巡ってとかではないですよ?)
『ふふっ、トリツィアは本当に可愛いわね。そういう所、好きよ』
(ありがとうございます?)
よく分かってないままに女神様から脳内に直接話しかけられた言葉に、トリツィアはお礼を言う。
女神様はこの状況を大変楽しんでいた。オノファノの恋心を理解しているからというのもあるだろうが、その分、トリツィアより楽しんでいる。
――そしてトリツィアと女神様の前で模擬戦が行われ、結果的に勝利したのはオノファノだった。




