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下級巫女です!!  作者: 池中織奈


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戦争の始まりと、勝敗と ③



「新聞でも、噂話でもどこでも戦争の話ばかりだね」

「そうだな」

「どこどこの場所で、負けたとか勝ったとか。それでいて、死んだ人の敵討ちだって騒いで、敵国のことを過剰に悪く言って、んー、戦争って大変だなって思う」



 トリツィアとオノファノはのんびりと中庭で会話を交わしている。

 塀の上に腰かけたトリツィアは足をぶらぶらさせている。


 トリツィアは戦闘経験はあるけれども、戦争の経験はない。

 本で読んだことがある情報や、新聞や噂で流れてくるような情報以外は知らない。それらの情報から見えてきた物は、異常に煽っているということだった。

 戦意を高めるためにも、思い込ませるというのは重要なのだろう。



「死んだら結局どうしようもないからなー。私も死者蘇生は出来ないし」

「……本当か? トリツィアなら出来そうな気もするが」

「オノファノは私の事、過大評価しすぎじゃない? やったことないけれど、無理じゃないかなーって思うよ。女神様の力を借りたら別かもだけど」



 トリツィアは巫女としてこれまで多くの者たちを癒してきたが、流石に死者蘇生というものは出来なかった。

 オノファノはトリツィアならばそのくらい出来そうと思っているのか、訝し気だ。



 とはいえ、流石のトリツィアとはいえ死者蘇生は無理だと自分で思っている。巫女としての力が誰よりも強かったとしても、そこまで出来てしまえば神の領域である。



「そうか」

「うん。だからオノファノも死なないようにね? 死にさえしなければ私が全快させてあげるから」



 トリツィアはそう言ってにっこりと笑う。



 その言動からも彼女が幼なじみの少年のことを大切に思っていることが伺えるだろう。オノファノは彼女の言葉に嬉しそうに笑っている。




「トリツィアも大怪我とかしないようにな。俺はトリツィアの傷を治したりは出来ないんだから。敵を倒すとかは出来るけど」

「うん。そういう怪我はしないようになるべくするよー。まぁ、よっぽどのことじゃなければ自分で回復させるから問題ないけれど」



 トリツィアがそう言って笑えば、オノファノも笑った。



 オノファノは戦闘能力だけは高いが、巫女であるトリツィアのように誰かを癒す力などはない。だからトリツィア自身が自分を癒すことが出来ないほどに弱ってしまえば、彼女を癒す者がいない場合もある。

 とはいえ、女神様はトリツィアの危機を放ってはおかないだろうけれど。



 



「そういえば他国には加護持ちの子がいるんだって。戦いに特化しているらしいけれど、オノファノとどっちが強いかな?」

「さぁ?」

「戦い系に全振りしているみたいなのだけど、どうなんだろうね? 私より強いのかな?」

「トリツィアより強いのは想像が出来ないな。何より、俺がそういう奴に負けるトリツィアは見たくない」

「ふぅん? まぁ、私も負ける気はないよー」



 オノファノの言葉に彼女は楽しそうに笑った。



 彼女に置いて行かれないように必死に戦う力を身に着けているオノファノは、追いつきたいとは思っている。しかし彼女が彼女らしくなくなることは嫌だとそんな感情を抱いているようである。





「私もオノファノが負けない方がいいなって思うな! その加護持ちの人がどういう性格なのか分からないけれど、弱い者いじめする人だとやだなー」

「それはそうだな。……加護もちなぁ。勇者であるヒフリーはああいう性格だったけれど、他の加護持ちはどういう性格だろうな」

「んー。好き勝手やると加護を没収されるっては女神様が口にしていたけれど、どうだろう? 面白い子だったらそれでいいけどな」

「戦争が終わったとしても、その加護持ちと会えるかはわからないぞ」

「まぁ、そうだね。会えた時に嫌な人じゃなきゃいいなぁーって」




 トリツィアはそう言ってにこにこと笑っている。



 オノファノとしばらく会話をしたトリツィアは、そのまま塀から飛び降りる。そして元気よく、「お祈りしてくる」と言ってそのまま去っていく。


 オノファノはその後ろ姿を見ながら、本当に何があったとしても変わらないのだろうなと笑うのだった。




 さて、トリツィアとオノファノがそうやってのんびりと過ごすことしばらく。

 彼女が女神様と話していたように、戦争は人々が想像しているよりも早く終焉を迎えた。



 それは加護持ちである他国の王子が、大きな活躍をしたからである。

 トリツィアの住まうムッタイア王国は、敗戦した。



 王族であり、神の加護を持ち、特別の名を欲しいままにするその王子は停戦条約を結ぶために彼女の居る国へとやってきていた。その条約はムッタイア王国に若干不利なものである。が、そこまで不平等なものではない。

 


 その力をもってして、他国を好き勝手に蹂躙しようなどとは思っていないのだろう。






「ふむ。お前が……女神が気に入っているという巫女か」



 ――そしてその加護持ちは、彼女の居る神殿へとやってきた。



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