下級巫女は、久しぶりに家族に会う。⑧
さて、マオとジンはトリツィアの家族と聞いて、どれだけ規格外の存在が来るのだろうかと恐れていた。
……トリツィアという少女が、普通の人間から産まれるとは到底彼らには思えなかったのだろう。それだけ彼女という人間は異質で色々とおかしすぎたのだから。
「ふぅん。これが魔王と魔神? なんか普通のペットにしか見えないんだけど」
「魔王と魔神だったからっていっても今は私のペットでしかないからね?」
「姉さんは本当に規格外だよね。この子、撫でても問題ない?」
ルクルィアはそう言いながら、トリツィアが断ると思っていないからか既に手を伸ばしている。
相手が魔王と魔神だと分かっておりながらその調子というのは、肝が据わっていると言えるだろう。
「うん。いいよ。マオ、ジン、私の弟だから、大人しく撫でられてね?」
マオとジンはトリツィアからそういわれてまえば大人しくするほかない。
大人しい二匹の頭をルクルィアは撫でまわす。それはもう遠慮なくべたべた触りまくっている。
「触り心地いいなぁ。僕もペット欲しくなっちゃうなぁ」
「飼えば?ルクルィアならどんなペットでも飼うことが出来そうだし」
「そうだなぁ。飼うなら僕に絶対服従の可愛い子がいいかなぁ。それで特別な力を持っている方が僕らしいよね」
ルクルィアはマオとジンを撫でまわす手を緩めることなく、そんなことを言っている。
「ルクルィア、ペットを飼うのはいいけれどきちんと面倒を見れる子を飼うのよ?」
「そうだぞ。ペットを飼うということは責任が生じるからな」
二人の両親たちは、ルクルィアが何かを飼うことに対してそんな意見を言う。……おそらく彼らの頭の中にあるペットというのは普通のペットではないだろう。
ルクルィアの言う特別な力を持つペットというのは、それだけ特別な魔物などを指している。
そういうものを飼うことに対して、両親たちは反対などをするつもりはないようだ。
それはルクルィアならばそういうペットを飼っても特に問題ないという確信からかもしれない。
マオとジンはそんなトリツィアの家族の会話を聞きながら、「こいつらも十分にトリツィア同様おかしそうだ」とひしひしと感じていた。
そもそもの話、トリツィアという規格外の少女を当たり前のように家族として受け入れているあたり、普通ではないのだ。彼らの中にはトリツィアに対する恐れもなく、その力を利用しようなどと思う感情などもない。あくまで自然体のように感じられ、マオとジンはトリツィアの家族たちに対する恐れを抱いているようである。
彼らにとってトリツィアは、敵に回してはいけない圧倒的な強者である。そしてその家族は手を出してはいけないものであり、それでいてトリツィアとは別の意味で恐ろしそうだと思っているようだ。
事実、彼らに手を出せば彼らが親しくしている者たちが黙っていないだろう。
トリツィアの家族の強さは物理的なものではなく、周りを巻き込む強さであった。トリツィアが個の力ならば、彼らはいうなれば数の力を持っているのだ。
「ルクルィアがペットを飼うなら連れてきてね」
「うん。その時は連れてくるよ。というか、少なくとも次に此処に来るまでは飼ってると思うよ」
にこにこしながらそう告げるルクルィア。もうすっかりペットを飼う気満々のようだった。
「ねぇ、姉さんはペットたちを散歩とかさせたりしているの?」
「うん。よく散歩しているよ。あとね、運動したりもしているよ。ルクルィア達は運動にはついてこられないかもしれないけれど、散歩は行けると思うよ。これから行く?」
「行きたい」
ルクルィアはトリツィアの言葉に笑顔のまま頷く。
トリツィアの両親たちは散歩にはついて行かないことにしたらしいので、彼らはオノファノと過ごすことになった。ゆっくりこの数年の話をオノファノから聞こうとしているようだ。
トリツィアはじっとしているよりも動いている方が好きである。それでいて周りにとっては信じられないような偉業も、普通のことだと彼女は認識している。だから彼女に聞いても正しくこれまでのことが分かるわけではないのである。
そういうわけでトリツィアのことを知りたいのならば、オノファノに聞く方が一番早い。
「じゃあマオ、ジン、散歩行くよー」
そうしてトリツィアはマオとジンを連れて、散歩を始めることにする。ルクルィアもその隣を歩く。
「姉さん、散歩って大神殿をうろうろしているの?」
「両方だよ。折角だから街に行く? リード付けて行こうか。ちょっと神官長に散歩行くって言ってくる! ちょっとリード持ってて。マオとジンは大人しくしていてね? ルクルィアに何かあったら怒るからね」
トリツィアは弟の問いかけにそう言ったかと思えば、神官長の元へと確認しに向かうのであった。
残されたのはルクルィアとマオ、ジンである。マオとジンはルクルィアをどうにでもすることは出来るが、それをすると自分の命が危ないので大人しく待っているのであった。




