下級巫女は、久しぶりに家族に会う。⑥
「姉さん、久しぶり」
「トリツィア、元気にしてた?」
「一年半ぶりか?」
さて、トリツィアの元に弟であるルクルィアと、両親が顔を出した。
どこか顔立ちはトリツィアと似ており、家族であることは一目で分かるだろう。トリツィアのその藍色の髪は、母親似で、緋色の瞳は父親似だ。ちなみに弟も同じ色彩の髪と瞳の色である。
愛らしい見た目のトリツィアと同様に、弟であるルクルィアも顔立ちは整っている方である。その両親も、平民の中では目立つほうだ。四人そろうと中々華やかである。
「久しぶりー。私は手紙にも書いたけれど、元気だよ!! 一年半の間に、色んなことがあったんだよ。部屋借りてるから中で話そう? オノファノも呼んでくるね」
家族に会えたトリツィアはとてもご機嫌な様子で、元気であった。
それだけ彼女は家族が家族のことを大切に思っているということがよく分かるだろう。
手紙のやり取りはしているものの、こうやって顔を合わせるのは実に一年半ぶり。久しぶりの家族の会合ということで、四人とも笑みを浮かべている。
大神殿所属の神官や騎士、巫女たちの中でも最近、こちらにやってきたばかりの者は「あれがトリツィアの家族!?」と驚いていた。それは彼らがトリツィアの異常性を知っているからだろう。
下級巫女という地位でありながら、驚くほどの力を持つ。それでいて自由気ままな性格で、普通では成し遂げないことを簡単にやり遂げてしまう。それがトリツィアという少女なのだ。
そんな少女の家族となれば、気になるのも当然だろう。
彼女の弟も、両親もそんな視線にはなれているのか特に気にした様子はない。
「一年半の間に色々あった……ね。なら、本当に僕らが驚くほどのことを姉さんは経験しているんだろうね。手紙に書かれていたこともいまいち分からなかったし」
ルクルィアはそう言って呆れたように、だけど楽し気に笑っている。
彼にとってみれば、姉であるトリツィアは規格外でおかしな存在である。それは世界中を旅しているからこそ、余計に実感出来るものである。手紙では書かれていないこともきっと多いだろうと、これまでの経験からも実感している。
そういうわけで、ルクルィアはこれからどんな話を聞けるだろうかと楽しみで仕方がないのだった。
それからトリツィアに案内されて、彼らは大神殿内の来賓室へと向かう。巫女の力が発現したものは、親元を離れて、神殿へと入る。こうして家族が会いに来ることもよくある話である。ただ神殿に娘を預けたっきり、音沙汰のない家族もいないわけではない。あとは身内が一人もいない天涯孤独状態の巫女もいないわけではない。
それに比べるとトリツィアは家族にたまにしか会わないとはいえ、交流は続けており、その仲は良いと言えるだろう。
オノファノも呼ばれて、家族の段愛の中に混ざることになった。最初のうちは「家族の中に混ざっていいのか?」と言っていたオノファノだが、トリツィアもその家族も幼なじみであるオノファノが一緒にいることを望んだため、毎回交ざるようになっている。もはや身内感覚である。
……まぁ、ルクルィア達はオノファノの気持ちを知っているからというのもあるだろう。
「ルクルィアは大きくなったね。前はもっと小さかったのに」
「姉さん、当たり前でしょ? 僕はまだ十三歳で成長期なんだから。姉さんも前より身長伸びているね」
「そうだよー。私もすくすく大人になってるの!」
「中身は相変わらずみたいだね……。姉さんはきっといくつになっても落ち着きがなくて、このままなんだろうなぁ」
「私だって大人になるよ?」
ルクルィアの言葉を聞いて、にこにこと笑いながらそういうトリツィア。
その様子を見ていると、きっといつまでたってもこのままなんだろうなとルクルィアは思ってならない。
「オノファノも元気だったかい? 前よりも背が伸びたね」
「トリツィアが迷惑をかけてないかしら? 何かあったら言ってね」
「迷惑をかけられたとは思ってないので、大丈夫です」
そしてオノファノはトリツィアの両親に話しかけられていた。
彼らにとってもオノファノのことは昔から知っているので、第二の息子のような感覚なのだろう。
「それで姉さん、さらっと書かれていたペットのこととか、勇者のこととか気になることはいっぱいなのだけど」
「書いた通りだよ? 私にペットが二匹も増えたの! 毎日散歩とかしているの。そのペットが魔王と魔神で、私の力を狙っていたりとかしたのと巫女姫様に頼まれたから対応したの!」
「うん。本当に姉さんは訳の分からないことをしているね? 僕も魔王と魔神の話は聞いたことあるけれど、なんでペットにしているの? 意味がわからないからね。姉さんらしいと言えば姉さんらしいけれど」
手紙には簡潔なことしか書かれていなかったので、ルクルィアは詳細を聞いたわけである。
聞いて訳が分からないなと思いながらも、自分の姉なら本気でそのくらいはやったのだろうと受け入れるルクルィアであった。




