下級巫女は、久しぶりに家族に会う。⑤
封印が解かれる。
それと同時に、その場に響くのは一つの咆哮だ。
その力強い咆哮は、周りの生物へと影響を及ぼす。
『ウテナ』の中でも戦う力を持たない者達は腰を抜かしている。それだけの力を持つ。
それを受けてもトリツィアとオノファノは平然としている。トリツィアに関しては、何処か楽し気である。
「生きが良さそうだね!! 美味しいといいなぁ」
「強いからといって美味しいかどうかは分からないからな」
「だよねぇ。でも折角倒すのなら美味しい方がいいな」
ドラゴンの封印が解かれたという状況下でも、彼らは本当にいつも通りである。
そのドラゴンは、黒い鱗に覆われた巨体である。それでいて魔力のようなものを体に纏っているのか、黒い何かで覆われている。見るからに不気味で、力強い魔力を持つもの。
それは、喋るだけの知能は持ち合わせていないのだろう。トリツィアという極上の獲物――食したら力を手に入れられそうなものを前に、本能のままにとびかかってくる。
彼女はそれだけ餌として魅力的なのである。そのドラゴンは人を自分の餌としか考えていない。長い間、封印されていたことにも不服である。餌ごときにいいようにやられてしまったことにいら立ちを抱えている。
そのような感情を抱いているからこそ、ただ餌を食らおうとそればかり考えている。
封印されている間は、餌を食べることも出来なかったので余計に今すぐ何かを食らいたいのであろう。
笑顔でにこにこと笑っているトリツィアは、とびかかってきたドラゴンを思いっきり蹴り飛ばす。
ドラゴンは、自分の体を人が蹴り飛ばしたという事実に驚愕したまま勢いよく吹き飛ばされる。
「おー、よく飛ぶ」
彼女の視界で蹴り飛ばされたドラゴンは、その翼を大きく広げ宙を舞う。空からトリツィアを見下ろすドラゴンは、蹴り飛ばされたことで彼女への警戒心を抱いたのであろう。
普通の人間ではなさそうなトリツィアではなく、『ウテナ』の面々を狙い始める。美味しそうな少女は食べるのに時間がかかりそうなので、ひとまず他で腹を満たそうとしているのであろう。
しかしそんなことを彼女が許すはずはない。ドラゴンと『ウテナ』の女性の間に飛び込む。
「もー、食べられる側が、食べようとしないでよ!!」
トリツィアはそう言って笑ったかと思えば、ドラゴンが何を言われているか理解する前に――その命を狩った。
首が切断される。それでもまだドラゴンは生命力が高いから動いていたが、次なるトリツィアの進撃により、生命が失われた。
目の前で簡単に封印されていたドラゴンを倒してしまったトリツィアに、シャルジュを含む『ウテナ』の面々は呆然としている。
「お姉さんはやっぱり凄いね。こんな簡単に倒しちゃうなんて。って、何やっているの?」
「お肉は新鮮なうちに処理した方がいいから」
彼女にとってそのドラゴンを倒したことはそこまで特別なことではないのだろう。
シャルジュの疑問にそう言ってにこにこしている。人々を過去に苦しめたドラゴンも、彼女からしてみればこれから食すお肉でしかないのであった。
てきぱきと解体作業を進めていく。解体の仕方を間違えればお肉の美味しさが損なわれてしまうかもしれない……というのもあり、彼女は気をつけながら解体をしている。
そしてその後、早速火を熾して焼いてみる。
「ほら、食べてみて」
トリツィアがそう言って笑えば、オノファノやシャルジュ達もお肉を食べる。
「美味しい……っ」
「うん。美味しくて良かったよね。これなら私の家族も喜んでくれそう」
トリツィアはにこにこしながらシャルジュの言葉に頷き、そう言った。
狩ったばかりのドラゴンのお肉が美味しくて、トリツィアは嬉しそうである。これだけ美味しいお肉ならば久しぶりに会う家族も喜んでくれそうだとにこにこしている。
(ただ焼いただけでもこれだけ美味しいのだから、もっと美味しい食べ方も色々ありそうだなぁ。どういう食べ方がいいかも考えてみると楽しそう!!)
彼女の頭の中は、美味しいお肉の食べ方ばかりである。
ちなみに彼女がにこにこしている横で、『ウテナ』の面々も美味しそうにお肉を食べている。ドラゴンのお肉というのは、そんなに高頻度で食べられるものではない。貴重なお肉を食べられて、皆、嬉しそうである。
「お姉さんの家族もきっとこのお肉、喜んでくれるよ」
「そうだといいなぁ」
トリツィアはそう言っているが、シャルジュからしてみればこれ程の珍しいドラゴンの肉で不満を言うようならどうしようもないとそう思ってならない。
それだけトリツィアが狩ったドラゴンのお肉は特別なものなのだから。
そうして目的のお肉を狩り終えたトリツィア達は、満足気にそのまま大神殿へと戻っていった。
――トリツィアの家族たちが大神殿を訪れたのは、それから一週間ほど後のことだった。




