下級巫女は、久しぶりに家族に会う。④
「この奥にドラゴンが封印されているんだ」
「ふぅん」
さて、トリツィアとオノファノはシャルジュに案内されて、山の上にいた。
大神殿から幾ばくか離れた場所にある巨大な山脈。その中でも最も標高の高い山の、中腹部。そこに大きな岩がある。それはまるで何かを閉じ込めるかのような蓋のようにさえ見えた。
そしてその岩には、巫女の力がまとわりついている。トリツィアはそれを感じているからこそ、本当にこの場には何かしらが封印されているのだと理解することができる。
「シャルジュ、此処にドラゴンが封印されていることが分かったが、敢えて封印をとくつもりなのか?」
オノファノはシャルジュの言葉を聞いて思う所があったらしく、そんなことを問いかける。
考えてみれば当然のことだが、ドラゴンを狩るということはわざわざ封印を解くことにつながってしまうだろう。
「ここの封印、そろそろ限界だって伝えられているんだ。百年ほど前に封印されたらしいのだけど、そろそろ封印を更新するのも難しいんだって。だからどちらにしても倒さなければいけないんだ」
シャルジュはそう言って語り始める。
この魔物がなぜ、此処に封印されているかの経緯も含めて。
「この山に現れたドラゴンは多くの人々の命を奪い、周辺の村などを壊滅に陥らせたと言われている。その力は強大で、言葉の通じないドラゴン相手に人々は奮闘した。だけれどもあまりにも強く、どうすることも出来なかった。このままではさらなる被害が予測され、多くの人々が死に絶えてしまうだろうと予想がされた。その時、立ち上がったのが一人の巫女であった。その心優しき巫女は、自分の命と引き換えにドラゴンを封印した」
「封印するために死んじゃったの?」
「少なくとも『ウテナ』に伝えられている昔話だと、巫女はなくなったとされているね。どのくらいの力を持っていた巫女だったのか、ドラゴンがどれだけ強かったのかまでは分からないけれど……まぁ、お姉さんとお兄さんの相手ではないと思っているんだけど」
シャルジュは軽い調子で告げる。
此処にドラゴンが封印されていた経緯を語っている時は真面目な様子だったのに、トリツィアの質問に答える様子は何処までも軽い。
それはトリツィアならば何の問題もないと本心から思っているからだろう。
「封印されているって、その間って意識あるのかな?」
「さぁ? 僕には分からないけれどお姉さんはそんなことが気になるの?」
「うん。どういう感じの封印なのかなーって。此処に漂っている巫女の力、心地よいものなんだ。それなりに力が強い巫女だったんだと思う」
「そうなの?」
「うん。そもそも力が強い巫女でないと、百年も持たせる封印なんて出来ないから」
トリツィアがそう答えると、シャルジュは少しだけ表情を変える。
「お姉さんが力が強いっていう巫女が封印したってなると、ちょっと心配になるかも」
「そんな心配はいらないよー。それにこの封印を施した巫女はそういう力だけに特化してたんだと思う。戦う力がある巫女って私も自分以外知らないもん。だからこそ封印しか出来なかったのかも」
巫女とは戦う力がない乙女が多い。トリツィアは例外であるが、基本的にはそういうことが出来ないものばかりだ。
その巫女は、一緒に戦ってくれるドラゴンを倒せるような味方がいなかったのだとトリツィアは思った。
(一緒に戦ってくれる存在がドラゴンにとどめをさせるほどの実力がなかったってことだよね。だから弱らせて封印するしかなかったとかそんな感じなんだろうなぁ。私はドラゴンの一匹や二匹ぐらいどうにでも出来るけれど、こうして封印しなければならなかったぐらいに強い力を持っているってなるとやっぱり美味しいかな)
トリツィアの頭の中にあるのは、美味しいか美味しくないかである。
折角家族へとお土産として渡したいので、美味しい方がずっといいのである。
「なるほど。まぁ、お姉さんに何かあってもお兄さんがどうにでもするか」
「まぁ、私とオノファノ居れば大体大丈夫だよ」
シャルジュの言葉に、トリツィアはにっこりと笑って言った。
それはトリツィアがオノファノの強さを信頼しているという証であり、オノファノは彼女の言葉を聞いて口元を緩めている。
「オノファノ、口元に手をやってどうしたの?」
「……何でもない。それで、シャルジュ、封印はすぐ解くのか?」
トリツィアに問いかけられて、オノファノはごまかし、シャルジュに問いかける。
「お姉さんとお兄さんが準備が大丈夫なら、封印とくよ。少しだけ時間かかるかもだけど……」
シャルジュのその言葉に、彼らは「今すぐ解いて問題ない」と口にしたので早速『ウテナ』の面々によって封印が解かれることになる。
その解き方も踏まえて、『ウテナ』には正しく伝わっているらしい。
「どんな食べ方したら美味しいかなー?」
「美味しい肉ならどういう調理方法しても美味しいだろ」
「そうかもね! 美味しいといいなぁ」
トリツィアとオノファノはそれを見守っている間、穏やかな会話をしているのであった。




