勇者がやってきた。⑩
「美味しい。やっぱり現地調達は良いよね!!」
「ああ。美味しいな」
にこにこと笑うトリツィアと、それに同意するオノファノ。
勇者もシンプルに焼いただけのそれを食べる。こうして狩られたばかりの魔物というのは、新鮮だ。
「美味しいですね。住んでいた村でも狩人が魔物を狩っていましたけど、流石にこれだけ大きな魔物はいなかったです」
勇者の住んでいた村は基本的に危険な魔物は少なかった。今、トリツィアが狩ったような大きな魔物はいなかったのだ。
それもあってこれだけ大きな魔物を当たり前みたいに狩っているトリツィアには驚く。
「この位の魔物は大きくないよ? 出張しているともっと大きい魔物が沢山いるから」
「……師匠はどのくらい大きい魔物と戦ったことあるんですか?」
「家より大きいのとかは倒したことあるよ!」
元気よくトリツィアにそう答えられ、勇者は「それは普通の魔物ではないのでは……?」と戦慄してしまった。
トリツィアは出張時ぐらいしかそういう大き目の魔物とは遭遇していないが、出会った際は毎回倒して食べていることが多い。
そのまま放置していれば甚大な被害が起きていたことは間違いないだろう。
「俺もそういう魔物を倒せるようになれますかね」
「ヒフリーは勇者だからそのくらい出来るようになると思う。でも勇者でも気を抜いたら死んじゃうから、命は大事にだよ!!」
「……そうですね。命あってこそですもんね。強大な敵と戦って死んで英雄として崇められるよりも生きて成果を残したいです」
人類の敵との戦闘後、英雄として崇められるものは確かにいる。それもまた本人が選んだことならば良いだろう。しかしヒフリーはそれよりも生きて成果を残したいと思っている。折角勇者として選ばれたのだから、その命を大事にしながら活躍していきたいのだ。
ヒフリーの言葉にトリツィアもオノファノも笑っている。
「ならそのためにもヒフリーは沢山魔物を倒せるようにならなきゃね」
「最初は力で押し切るが出来ないだろうから、魔物ごとの弱点とかを知るのも大事だな。どこを剣で切れば相手の息の根が止められるか。それが大事だな」
「そうですね……。まずは次に魔物が出たら俺が倒してみようと思います」
ヒフリーがそんな決意を語れば、トリツィアとオノファノは頷くのであった。
さて、ヒフリーの体力が回復したので三人で移動する。道中で魔物がいればヒフリーに相手にさせる予定なので、少しゆっくりとしたスピードで進んでいる。
「ほら、ヒフリー。魔物いるよ。倒してみたら?」
そして何匹かの魔物と遭遇する。ヒフリーは多対一はいきなりは難しいとのことなので、他の魔物に関してはトリツィアとオノファノで対応をする。
ヒフリーは、狼型の魔物と対峙している。その素早さに、対応していくのがやっとのようだ。
勇者になってからやったことと言えば対人戦ばかりだったので、ヒフリーは緊張した面立ちである。
「おー。ヒフリー。素早さには対応出来てる。追いつかれたら大変だよ」
「そうだな。流石勇者だな。でも回復力も高そうだから少しの傷ぐらいなら自己回復しそう」
「それならちょっとぐらい無茶させてもいいかな?」
「少しぐらいならな」
トリツィアとオノファノは一生懸命な勇者とは対照的に、のほほんとした会話を交わしていた。
他の魔物達は早急に倒され、残っているのは勇者が対峙している魔物だけである。
「この前まで一般人だったのにあれだけのスピードで動けるのは凄いよねー。勇者として加護的なものかな」
「だと思う」
「神様はやっぱり偉大だよねー。でもヒフリーにはそういう加護抜きでも戦えるようになってほしいな」
「まぁ、そうだな。加護だけを頼りにしていると思わぬところで失敗する可能性があるしな」
「そうそう。ヒフリーに加護を与えた神様も、ヒフリーに簡単に死んでほしくないだろうからちゃんとしておきたいよねー」
トリツィアが一番信仰しているのは、一番交流のある女神様であるがそれ以外の神様に対しての信仰心ももちろんある。
なので、その神様が加護を与えた勇者が健やかに過ごせればいいとは思っているのである。
トリツィアとオノファノが見守っている中で、勇者はようやく魔物を倒すことが出来ていた。
傷は負ったようだが、その傷は簡単に塞がれている。
――はじめての魔物討伐を行った後だからだろうか、勇者は疲弊した様子で座り込んでいる。
「ヒフリー、お疲れ様。どうだった?」
「……人と模擬戦をするのとは勝手が違いますね。人と違って予想外の行動をしてくるから、結構難しいなと思いました」
「そうだね。魔物は本当に予想外の行動してくるからね! もっと慣れないとだよ」
トリツィアがそう言って笑えば、勇者は頷いた。
それから近場の村に到着するまでの間、勇者は魔物を何種類か倒していくことになるのだった。




