邪神は既に封じ込めてある ④
「はーい、というわけではじめるよー。上級巫女を大人しくさせよう計画――パチパチパチ」
(一人で元気ね、トリツィア)
「元気ですよー。でも一人で喋っているわけではないですよ! ちゃんと女神様が私の事を見守ってくれていることを知っているからこその言葉なんですよ!」
(ふふ、本当に楽しそうね。楽しそうなトリツィアを見ていると嬉しいわ)
「私も女神様が見守ってくれていると思うと嬉しい! ねぇねぇ、女神様、今回はどうしましょうかね。前に夢で色々脅しつけたのも楽しかったですよねー。今回はちょっとリアルでいきます??」
(どっちでもいいわよ。トリツィアが楽しそうにしたらいいわ)
「じゃあ、そうする!」
トリツィアはにこにこと笑っている。
以前にも同じようなことをやらかしていたのだろう。そのことがトリツィアの様子からうかがえる。
女神様の声はトリツィアにしか聞こえていないので、周りからすればそれはもう気がふれたと思うことだろう。
ちなみにトリツィア、何処で話しているかというと大神殿にある時計台の上である。
本日掃除当番のトリツィアは此処にきていた。
「さーて、じゃあ、やりますか!!」
(ふふ、楽しそうね)
そんなわけで誰も把握していない所で、トリツィアによる上級巫女を大人しくさせよう計画が始まっていた。
もちろん、当然のことであるが、本人である上級巫女も把握していないことである。
さて、その上級巫女は今日も自分が好きなように出来なかったので文句を言っている。その上級巫女は部屋で不機嫌そうな顔をしている。
その上級巫女の部屋の扉がこんこんっと叩かれる。
上級巫女は不機嫌ながらに扉をあける。
「ひっ」
そこには、文字が書かれている。
邪神の封印されている場所に一人でくるようにという文字。
上級巫女は恐ろしいとでもいう風に声をあげた。
恐る恐るとそれを見て、きょろきょろとあたりを見渡す。声を上げても、誰も出てこない。
ちなみにこれはトリツィアが音が遮断されるようにしているからである。……上級巫女からしてみれば、幾ら声をあげても誰も出てこなくて、一人で取り残されたような気持ちになってしまっていることだろう。
上級巫女は恐る恐るとでもいう風にその言葉の通りに動く。
そして邪神の封印されている場所へとたどり着く。その石碑は、昼間に見た時とは違う禍々しさが醸し出されていた。ちなみにそれに関してもトリツィアが好き勝手やっている結果である。
魔力を立ちこませて、精霊達に頼んでそういう雰囲気にしている。
精霊たちは面白いことが好きなので、結構トリツィアが頼むと助けてくれたりする。それはまぁ、精霊たちもトリツィアのことを友人として慕っていることが分かる。
《誰かいるのか》
「ひっ」
《女子の声か。我が糧となるか》
「ま、まさか、邪神!? わ、私が一人の時にそんなことがあるなんて!!」
ちなみにこの邪神のような声、トリツィアがノリノリで演じている邪神である。無駄に様々なことをする能力を磨いているトリツィアは、そういうことを簡単にしてしまうだけの能力があった。
《貴様の力をよこせ》
「ひぃいいい」
《ちっ、貴様を食べられるほどまだ力が回復していないか。ゆめゆめも忘れるなよ、巫女よ。我は力を蓄えている。貴様のように信仰心を持たないものが増えれば増えるほど我は復活をすることが出来るのだ。ふはははははっ》
若干無理やり、しかも何言っているの? というような言葉だが、混乱と恐怖でいっぱいの上級巫女はそのままへたり込んで震えている。
恐怖で一杯の上級巫女はそういったことを考える余裕はない。
そのまま気絶してしまう上級巫女。そこに近づくトリツィア。
「ふーん。気絶しちゃったよ。もっと脅しつける??」
(楽しそうねぇ。トリツィア)
「うん」
トリツィアは気絶した上級巫女を見ても楽しそうに笑っている。その上級巫女の身体を軽々と持ち上げると部屋へと戻した。ついでに精霊たちに頼んで、彼女がもっと怯えるように耳元で言い聞かせてもらうことにした。
「これでいいかな。あの上級巫女、中々怯えやすいみたいだし、大丈夫だよね! まぁ、これでもまだまだ大人しくしないならもっとやるだけだけど!」
(私も大丈夫だと思うわ。でも駄目ならやりようがあるものね。こうしてたまに誰かに悪戯するのも楽しいわよね)
「うんうん。楽しいですよね。それにしても女神様も出会った頃よりも何だかこういう悪戯にのってくれるようになりましたよねー」
(私もトリツィアに感化されているのかもしれないわ)
「ふふ、仲良しは似るっていいますもんねー」
トリツィアとソーニミアはそんな会話を交わして、楽しそうである。
そして翌日、上級巫女は怯え切っていて、邪神の脅威を訴え、行動を改めた。
その様子を見て、トリツィアは満足気に頷くのだった。
――トリツィアが、邪神を既にどうにかしていることなど知らないままに、大神殿の人々は今日も邪神への対策で動いている。




