他国の巫女、彼女におののく ③
「オノファノ! 他国の上級巫女の方が私に会いに来るんだって!!」
「トリツィアに会いにか?」
「うん。私に会いたいんだって。巫女姫様が信用できる人って書いているから、そういう人なんだろうね」
さて、トリツィアは巫女姫から手紙を受け取り楽しそうにしている。
ちなみに今、トリツィアとオノファノは元気に模擬戦をしている。その合間に和やかな会話を交わしているわけである。
その様子を見ている巫女と騎士たちはすっかりその光景に慣れ切っている。……入ったばかりの者は目をむいているが、周りに説明をされていた。
「……他国の巫女か。トリツィアはこれまでに会ったことあるのか?」
「挨拶程度はしたことは昔あったけれど、ちゃんと喋ったことはあんまりないかなぁ。他国の巫女との関わり合いって外交ともいえるから大体偉い人がやるものだしね!」
元気よくトリツィアはオノファノの言葉に応える。
国をまたごうが神を信仰する者という共通点はある。とはいえ、国が違うからこそその交流はある意味外交であるともいえる。トリツィアは平民の出であり、そういう国と国同士の関わりはよく分からない。
「その巫女がトリツィアに会いに来るなんて面倒なことが起こらなければいいな」
「巫女姫様が大丈夫だって言ってやってくる人なんだからきっと問題ないと思うよ! 巫女姫様は面倒な人は私に会わせようとかきっとしないから」
「まぁ、巫女姫様はトリツィアの機嫌を損ねようとは思っていないだろうけれど……世の中には悪気無くこちらが嫌なことやってくる連中もいるからなぁ……」
「そういう人もいるよね! どうするかは本人たちが決めることなのにねぇ。やってくる上級巫女様ってどんな人なんだろうね? 仲良くなれたらいいね」
オノファノは会ったこともない他国の巫女がどういう思惑でトリツィアに会いに来るのだろうかと少なからず心配を抱いているらしい。しかし当の本人であるトリツィアときてみれば、全く心配した様子もない。
「よしっ、とりたえず今日の身体を動かすのはこれで終わり―! 良い汗かいたかも!!」
「満足したならよかった」
「私と模擬戦、オノファノぐらいしかちゃんとしてくれないからねー。いつも付き合ってくれてありがとう!」
「俺もトリツィアとの模擬戦は鍛錬になるからな」
巫女とは本来、守られるべきものである。自身で戦う力など持たない。だからこそ巫女を守るための護衛騎士がいる。本来守られるべき巫女であるトリツィアからの模擬戦を皆が応じないのは当然と言えば当然である。まぁ、この大神殿ではトリツィアの強さを知っているため好んで模擬戦をしようとするものがいないというのも大きな理由だが。
トリツィアは身体を動かすことを好んでいるので、オノファノと模擬戦をした後はいつも嬉しそうにしている。
「オノファノも前より強くなったよね!!」
「トリツィアについていくなら強くならなきゃだからな」
「オノファノが強くなってくれるから模擬戦も全然飽きないし、凄く楽しくていいことだよね」
トリツィア自身もその強さを増している。オノファノがトリツィアと模擬戦が出来ないほど弱くなってしまったら彼女はつまらないと思うだろう。こうして思う存分身体を動かしていて楽しいのは、彼が彼女についていけているからなのだから。
その後、模擬戦に満足したトリツィアはお風呂に向かった。大神殿内には巫女が自由に使える風呂が完備されている。平民の家には風呂はなかったりするので、毎日お風呂に入れるのも巫女としての特権と言えるだろう。
「ふんふんふ~ん」
ご機嫌な様子で鼻歌を歌いながら、湯船につかるトリツィア。他の巫女たちはトリツィアに近づかないようにしているらしい。
(上級巫女の人、どんな人なのかな? レッティ様とか巫女姫様とかお同じような雰囲気の人なのかな? それにしても私に会いたいのってどうしてなんだろう?)
そんなことを考えるだけで、トリツィアはワクワクしているようである。
『トリツィア、他国の巫女と交流をするのよね。問題ないと思うけれど一応気をつけなさい』
(女神様こんにちはー。オノファノもだけど女神様も心配性ですね)
ゆっくりしていると、女神様から声をかけられる。
『アドレンダがよこしてくる巫女だから問題はないと思うけれど……、何かあったらすぐに言ってね。トリツィア』
(ありがとうございます! でもそんな心配はいらないと思いますー。それにしても何をしに来るんでしょうね?)
『魔王と魔神のことだと思うわよ。トリツィアがペットにしている存在はそれだけ特別なものなのだから』
(なるほどー。マオとジンに会いに来たいってことですね)
『トリツィア自身に会うのが一番の目的だと思うわよ。トリツィアの力を見たら、イングスミア帝国に来て欲しいと勧誘されるかもしれないわね』
(んー。それは却下します。私は今の暮らしに満足してますからね!!)
トリツィアは女神様の言葉にそう答えるのだった。
――そしてそんな会話からしばらくして、上級巫女がやってきた。




