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下級巫女です!!  作者: 池中織奈


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他国の巫女、彼女におののく ②

 バニーヌはアドレンダと向き合っている。

 ――その場に他にいるのは、ゼバスドという騎士だけである。




「アドレンダ様、人払いをしたということは魔王と魔神に関することの詳細を教えていただけるということでいいですか?」

「……そうですね。バニーヌさんにお伝えするのは構いませんが、これから話すことは他言無用でお願いします。それは女神を敵に回す行為になりますから。くれぐれもよろしくお願いします」



 ――アドレンダとしてみれば、女神から大変気に入られているトリツィアの機嫌を損ねたくないと思っている。

 トリツィアのことをアドレンダは好ましく思っているのもあり、嫌われたくないとも思っている。

 

 それにもしトリツィアを不快な気持ちにさせれば、女神は黙っていないだろう。女神は彼女をそれはもう大切に思っているから。



「はい。神の名の元に、アドレンダ様から聞いたことを許可なく話さないことを誓います。私はアドレンダ様がそのような秘密を語ってくださることを喜ばしく思っています」

「私の秘密ではないですけどね。私も秘密を共有された側なので」


 巫女姫はそう言ったかと思うと、不思議そうな顔を浮かべる。

 バニーヌはその秘密はアドレンダに大きく関わるものだと思っていたのだ。だから、秘密を共有された側と言われてもよく分からない。





「ドーマ大神殿にトリツィアという下級巫女が居ます」


 まず、巫女姫はそう切り出した。バニーヌにはどうして急に下級巫女の話をするのか分からない。同じ巫女であったとしても、巫女姫と上級巫女にとっては下級巫女はそこまで気にする存在ではない。

 

 秘密と下級巫女がどうつながるのか全く分からなかった。






「どうしてその下級巫女の話を?」

「あなたの聞きたいことに関わりのある人物だからです。トリツィアさんは、下級巫女の地位にいますが、私よりも巫女としての力が強いのです」

「え? アドレンダ様より力が強いなどということがありえるのですか……?」

「私よりもというより、現役の巫女の中で誰よりも強いと思います」

「なんで、そんな方が名を知られていないのですか……?」



 巫女姫であるアドレンダの言葉なので、嘘であるとは思えない。それでも本当にそんな下級巫女が居るのだろうかと訝しむのは当然と言えば当然だった。





「本人が下級巫女として楽しく生きることを望んでいるからですね。昇格することも全く望んでいません。下級巫女の暮らしを気に入っているみたいなので」

「……意味が分かりません」

「意味が分からなくてもそういう方なのです。そして彼女はソーニミア神と大変仲良くしています。トリツィアさんに何かあったら、ソーニミア神が敵に回ります」

「……女神と仲良くしているとは?」

「詳細は私も把握していませんが、よく話しているようです。それに彼女はその身にソーニミア神を降ろすことも出来ます」

「……なんで下級巫女やっているのですか?」

「それは彼女自身が望んでいるからですね。……それでまぁ、なぜトリツィアさんの話をしたかというと、魔王や魔神に関しては彼女が大きく関わっています」




 巫女姫も説明しながら、本当に何故彼女が下級巫女の地位のままなのだろうかと不思議でならない。

 もっと権力を求めていたり、昇格することを喜ぶ性格だったら違ったのだろうが、トリツィアはそういうものを望んでいない。





「魔王や魔神というのはその性質上、力の強い巫女を狙います。それは過去の事例からも明らかでしょう。……魔王や魔神といった存在がこの国を狙ってきたのも、この短期間で出現しているのも、おそらくトリツィアさんの力が強すぎるからというのも大きな理由の一つだと思います」

「……そうですね。力が強い巫女は彼らにとって天敵のはずですから。アドレンダ様ではなく、そのトリツィアさんが狙われていたということは本当にその方の力は強いのですね」

「はい。魔王に関しては直接トリツィアさんを狙いました。魔神に関しては私がトリツィアさんについてきてほしいと望み、共に向かいました。結局私では……どうしようもなかったのです。そのあたりをすべてトリツィアさんが解決しました。結果として魔王も魔神もトリツィアさんのペットになっています。ソーニミア神が許していることなので、私はトリツィアさんに任せています。これが一連の魔王と魔神にまつわることです」

「はい?」



 巫女姫は、真実を告げている。淡々と起こったことを言っているのだが……、どうしてもそれは現実離れしていていまいちバニーヌの頭にすっと入ってこない。




(アドレンダ様が嘘をおっしゃることはないだろう。だけれども……本当に? これだけこの国が平和な理由は、それだけ非現実的なことが起こらなければ説明などつかない。けれど、たった一人の下級巫女がそれだけのことを成し遂げた?)



 ――思考して、それをなんとか呑み込んで。

 だけれど、やっぱり信じられない気持ちでいっぱいである。




「あなたが信じられないと思うのも当然だと思います。私もこの目で見るまでは彼女のような方がいるとは思わなかったので」

「……アドレンダ様がそこまで言うほどなのですね」



 本当に理解が追い付かない。それでも巫女姫がまっすぐな瞳でそういうから――、




「私はその方にあってみたいです」



 バニーヌは実際にトリツィアにあってみたいと思った。



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