ペットが増えたよ ⑥
「トリツィア、ジンはまだ聞き分けが悪いのか?」
「うん。プライドが高いのかも。私にかなわないなーってなんとなく分かってそうなのに、やっぱり自分が『魔神』だからって思っているのかも。マオみたいにペット生活楽しんだ方が平和的でいいと思うんだけどなぁ」
「それはそうだな。ジンがそのままだと他の人に危害を加えそうだしちゃんとしないとだよな」
「うん。私とオノファノはどうにでも出来るけど、ジンが他の人に危害加えたら大変」
トリツィアとオノファノはそんな会話を交わしている。
魔神などという人々を混乱と恐怖に陥らせる存在もトリツィアとオノファノにかかればちゃんと躾をしなければならない存在でしかないのである。
「危害を加えようと思えば、多大な被害が出るだろうからな」
「うん。ジンは他の人にとって危険みたいだから。巫女姫様もジンと対峙するのに凄く緊張していたもん」
魔神なんて存在が解き放たれ、自由に動けば……それはもう多大な被害が出ることだろう。
過去の記録では魔神が現れた際には人々は多大な被害を受けている。それだけその存在は特別で、本来ならばペットになどなるものではないのである。
ジン本人だってそう思っているのだ。
自分には力があるからこそ、このままペットとして終わるのは……とそう思っているのだろう。
「ジンがペット生活受け入れてくれなかったら、封印とか消滅とかになっちゃうから出来ればいい子でいてほしいんだけどなぁ。マオもペット仲間が居た方が楽しいだろうし」
トリツィアの考えていることなどそういう単純なことばかりである。深く物事を考えずにやりたいようにただ行動している。大人しく自分に付き従うペットのマオへのペット仲間という位置づけなのがジンである。
……マオ本人はおそらくジンが封印もしくは消滅させられたところで寧ろほっとすることだろうが、トリツィアの思考では同じような仲間が居た方がいいのではと思っているらしい。
「どうしたらジンもペット生活受け入れてくれるかな?」
「やっぱり徹底的に分からせることだろうな。それにしてもマオの方がすぐにペット生活を受け入れたのは、魔王と魔神の差か」
「どっちも似たようなものだと思うけどね。ジンも私やオノファノ、それに女神様に対して敵対すると大変だって分かっていると思うのだけど……。私は今の所、誰かに負けたりはしてないけれど、どうしても勝てないってなったら大人しくするけどなぁ」
「トリツィアはまぁ、いいかと思ったらすぐに何でも受け入れるよな」
「うん」
トリツィアは自分の意思が明確な少女である。とはいえ、許容範囲が広いというか、「まぁ、いいか」と思ったら受け入れてしまうような性格でもある。
例えば少女にとって絶対的な存在である女神様が何かを望めばそれを全力でかなえようとするだろう。女神様が今の友人と言う関係ではなく、別の関係をトリツィアに強要しようとしたとして「女神様の言うことならいいか」と受け入れはするだろう。
「嫌なことはちゃんと拒否するけどね! でも私、マオとジンに言っているのって周りに危害を加えたりしないでいい子でいいよーって言ってるだけだもん。それを守ってくれていればなるべく可愛がって、やりたいことはやらせようと思っているんだよ。周りに危害を加えるのって、マオとジンが本当に心の底からやりたいことではなさそうだし」
「あいつらの場合、力があるからこそ、そういう存在と認識されているからこそそうであるべきって自分で決めてるんじゃないか?」
「ふぅん」
「そういう奴は人にも結構いるだろう。それだけの力があるならこうあるべきって決めつけてくる連中」
「うん。ジンに別に力があるからってそれを人を害する方に使わなくていいよーって言ってみようか。魔神だって言われてようが、そんなことを絶対にしなきゃいけないわけじゃないしね!! 魔神って呼ばれていた事実があろうとも、私のペットとしてのびのびと過ごしてていいんだよーって」
「それでジンが納得するかは分からないけどな」
「そのあたりは納得するまで分からせるしかないね!」
にっこりと笑ったトリツィアは、そういう結論に至ったらしい。
どうしても心の底から誰かを害することをやりたいというのならば仕方がない。その場合は、平和的に排除するしかない。でもおそらく、彼はそれだけの力を持つからそうしようとしただけである。別にそれを強要されているわけでも、何が何でも叶えたいと思っているわけではないだろう。
少なくとも自分の存在が消滅したとしてもそれを成し遂げたいとは思っていないはずだ。
トリツィアはそう思っているので、しばらく結界の中にとじこめたままのジンと対話を試みてみることにしたらしい。
……トリツィアは割と自分の力で強引に解決することも多いが、基本的には神に仕える巫女として平和に解決できるならその方がいいとは思ってはいるのであった。




