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アンティーク姫のいる探偵事務所  作者: 赤柴紫織子
四章 バーニングヘル
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七話『立ち上がれ』

 所長の怒鳴り声に驚いたようで身を固くしているのが何人かいた。

 この業界にいるんだからそれぐらい慣れていてもおかしくないはずなのに。それともまだ日が浅いのだろうか。こんなところに新人を連れてくる理由はあるのか。


 …ああ、あるな。力を見せつけているんだ。こういった集団を統一するのは所詮暴力だったりする。

 背いたものや逃げたもの、果ては恨みを買った人間を容赦なく処罰するところを見せしめにすることで輪を乱しにくくさせる狙いが含まれているのだろう。


 それに――死体を見せる絶好のチャンスだしな。

 僕は大人しくあちら側の考えに沿うつもりはない。ないが、打開策が浮かばないままだ。


 顔に傷のある男と所長はぎりぎりぎりと睨みあう。


「そもそもあのクソ上司には一人も子供なんていやしねえ。俺はその嫁の親戚の子だ」

「……」

「残念でしたーってな。あのバカの血は途絶えてんだよ。働き損だったうおっ!?」


 所長の縛りつけられている椅子が蹴り倒された。

 背中から倒れこみ、痛そうな音が倉庫内に響く。


「いってぇ…受け身取れないんだからさぁ…」


 ぼやきを聞かず、顔に傷のある男は咲夜さんを睨んだ。


「どういうことだ」

「そういうことよ。…言ったはずだけど」

「聞いていない」

「じゃあ話を聞かなかったあなたが悪いのよ。私を信用が出来ないとあなたは言っていたわね。でもそれは話を聞かない言い訳にはならないでしょう」


 反論ができないのか男はグッと押し黙る。

 やれやれと彼女は首を振って続けた。いつの間にか僕から足はどけられていた。


「こいつとあなたたちが狙っていた城野おとこの直接的な関わりはない。ねえ、石橋さん?」

「へ? あ、ああ」


 ネズミ顔の男…石橋が頷く。

 それから顔に傷のある男に対して申し訳なさそうな声を出した。


「すまない…既に承知の上だと…」

「…まあいい。つながりのある人間だけでもこの際いい」


 やけくそじゃないか。

 だけどここで「ごめん、勘違いだった」で解放してくれるなら元からこんなことするはずもない。


「『龍』の信頼を落とし、失態と失敗の連続で我々は舐められすぎた。分かるか。築いたものを壊しやがったんだ!」

「何したんだよあいつ……」


 先代所長に一番近かった所長さえ把握していないことがあるのは正直恐ろしいな。

 わざと教えなかったのか、それとも言うのを忘れていたのか。うーん、今までの話を聞いているとどうにも後者っぽくて。


「お話はいいんだよ、さっさと殺そうぜ」


 カエルみたいな顔をした男が出て来た。

 この組織、顔に特徴のある人たち多すぎる。


「内臓を引き出すか、それとも指先から焼く? その前に声帯取っていいよな」


 楽しげに提案しながら、僕に目を止めた。


「先にそこの男で予習してやろうぜ、生きがいいうちにさ。なんか暴れたんだろ?」

「はん、そういうあんたはケツにストロー突っ込まれて破裂させられそうな顔してんな」

「てめえ…」


 カエル顔の男の足が所長の腹にめり込む。

 吐くまでは至らなかったが、激しくえずいた。彼は今あおむけの状態だ。酷い苦痛だろう。


「城野からはろくでもない事しか教わらなかったようだな? いつまでそんな軽口が叩けるか見ものだ」


 頭上から降り注ぐは嘲笑。


 誰がどう見たって不利なのは分かっているくせに、どうして自分から相手の逆鱗に触れるようなことをするのか。それは、半分は僕のせいだ。

 焦りと苛立ちが募る。

 手首に力を込める。ぷつぷつと繊維が切れていく感触がする。それとも僕の血管の方か?


「っこの…」


 無理やりにでも体を起こし、膝立ちになる。

 頭がふらついた。暑いのもあるし、やはりまだ薬は切れていない。


「馬鹿、なにをして…」


 さっきから所長が身体を張って僕に危害が加えられない様にしているのは、もううんざりだ。

 確かにオマケポジションであるけどいちいち庇われないといけないほど僕は柔くはない。


「さっきから好き勝手言ってるけどさ…こうやって動かないようにしないと怖いんでしょ?」

「……」


 怖いおにいさんたちに一斉に睨まれた。圧巻だ。


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