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アンティーク姫のいる探偵事務所  作者: 赤柴紫織子
三章 レーゾンデートル
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二十一話『秘密のお話』

四回目

「…でも…」

「……それが……」


 うつらうつらとする中、話し声が聞こえた。

 ここは個室の病室だ。

 僕たち以外には誰もいない、プライベートな空間。

 どうやら鴨宮姉弟は過保護らしい。微妙にランクが高い気がする。

 そこにあるソファで僕と姫香さんと咲夜さんは眠っていた。


 薄目を開けるとベッドに横たわる百子さんと傍で座る所長が何か会話を交わしている。

 動こうとすると、小さな手が僕を押しとどめた。

 驚いて横を見ると姫香さんも咲夜さんも目を覚ましている。静かに。咲夜さんは口形だけでそう言った。

 邪魔するなってことか。

 そして僕たちは寝たふりに入る。


「それにしても、当主サマが結婚してたのは知ってたのか?」

「うん、三四子みっちゃんたちがおしえてくれてね。あの年齢なら子供の一人や二人は作ってるでしょ」

「二十五だったか」

「そ、あたしの一個下」


 そういえば百子さん二十六歳か。

 所長は確か二十九歳だったな。


「それと今回の騒動がどう関わりが?」

「次代の当主争いだね。生まれて男児ならいいけど、女児なら…まあ、序列は低いから、うち。たとえばいっちゃんが尊重される一方でみっちゃんは下に見られがちなんだよね」

「言いたかねえが男尊女卑かよ」

「そうでしか生きていけないんじゃないのかな~。そのまま女児しか生まれなかったら? 次の当主はいっちゃんかもしれない。でも、腹違いの兄が、それもまあそこそこパソコンを使えるってなったら?」


 そこそこレベルじゃないけどな。

 あちらだとそこそこレベルだったりするのかな。


「モモが当主になる可能性もあるってか」

「そういうこと。だからさっさと殺したかったんじゃない? あんなに慌てて何事かと思ったけど、真実なんてこんなもんだよ」


 しばらく空調の音だけが響く。


「……なあ」

「ん?」

「なんでツルと飯食いに行ったんだ」

「ふふ、嫉妬? 好きなもの一杯食べさせてもらちゃった。最後の晩餐ってやつ?」


 だからあんなに食べてたのか。

 ビールを一杯だけしか飲まなかったのも、酔いを翌日に残さないため。


「ばぁか、何が嫉妬だ。不思議に思っただけだよ」

「ケンちゃんの暴走を止めるためにはヨヅっちしかいないじゃん? さっきゅんもヒメちゃんも積極的に止めなさそうだし」

「まあな」


 結局みんなで暴走しちゃったけどな!


「あとは『鴨宮』の話ってさ…正直、彼にどんな影響を与えるか、分からなかったから」


 …影響ってなんだろう。

 そういえば僕に『鴨宮』について知っているか聞いて、知らないと言うと安堵していた。

 あれは、どういう意味だったのか。


「だからって一人でするな。何かあっても遅いんだぞ」

「うん、独断すぎたなって反省してる。ごめんね」

「……」

「ごめん」

「怒ってねえよ」

「怒ってないよね。ほら、そんな顔しちゃって」


 すごく顔が見たかったが、今起きてしまったら絶対気まずい。

 会話が途切れ、天使が通っていく。


 そろそろ起きていいかな。

 そう思って背を伸ばそうとした時だった。


「あんたにまで置いて行かれるとは、思わなかった」


 寸でで息を飲むことを止められた。


「……そっか。先代のしていることと、同じか」

「自分勝手に出ていくところがな」

「それはケンちゃんもだよ。ケンちゃんのが数百倍悪い」

「…あれは…モモを…」

「分かってる。分かってるよ。あたしをこれ以上争いに巻き込まないようにしたんだって」

「……」

「髪も切られてさんざんな格好しているけど、それでも…あたしは、生きている。髪はまた伸びるし。生きてるんだよ、ここで」


 一拍置いて。




「先代みたいに、首だけで戻ってきたりなんかしなかったよ」




 僕はソファから滑り落ちて床に転がった。痛いしつめたかった。

今年度の更新は以上です。来年もよろしくお願いいたします。

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