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アンティーク姫のいる探偵事務所  作者: 赤柴紫織子
三章 レーゾンデートル
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十六話『サービスタイム!寿命がちょっと延びるぞ!(でも死ぬ)』

 ヘッドショットにこだわらず、当てやすい胴体を狙えと所長に言われたのでその通りにしたら結構うまく行った。

 僕が一発撃破にこだわりすぎていたのだ。

 それよりなんでそういうアドバイスができるんだろうね。不思議だね。


 さてと。ここも十人か。三人倒れたから七人。

 階下の人数を合わせると合計二十四人。

 予想としてはもっといると思っていた。でもわらわら居すぎたら統制が取れないから、これが最適な数なのかもしれない。

 その半分は死んでいるけど。


 所長が注視した先。

 小心者っぽいオーラを出す男と、傍で横たわる――百子さん。

 まさか遅かったかと一瞬心臓が跳ね上がったが、もぞりと頭が動いたのでひとまず安心する。

生きていることを確認できた。

 安堵するには早いが、胸のつかえがとれた。


「サク、ツル。俺あいつ担当するからあんたらは適当にやってくれ」

「はい」

「了解しました」


 怒りに身を任せないか不安があるが、こちらも所長にぴったりくっついているわけにはいかない。

 姫香さんが僕たちを見て頷いたから任せよう。

 でも城野義兄妹って暴走することが稀によくあるから心配なんだよな…。


「できるだけ所長に注意をむかせないようにしましょう」

「はい」

「私の方で何人か残しておきます。だから」


 咲夜さんはわずかに唇をゆがめ、持っていたナイフの切っ先でくるりと円を描く。


「お好きにどうぞ」


 まるで僕が殺人狂みたいじゃないか。

 だけど、その心遣いはありがたく受け取っておく。

 いちにのさんで僕たちは駆けだした。



 まずは手ごろな場所にいた人間にとびかかり、押し倒して喉元を砕く。

 これで死んだかは分からないが、行動不能にはなってくれているだろう。


 次に僕に銃口を向ける相手に意識を向ける。

 相手の背中側に入り込み攻撃を交わすと、銃を持っている手首を上から掴み引き寄せた。

 それから膝を蹴り体形を崩させてから腕を捻りあげる。

 相手がまだ掴んだままの銃をこめかみに当てて、ズドン。

 そのままこの銃を使いたかったが、硬く握りしめたまま死んでしまったので諦める。


 さて、最後。あとは咲夜さんの方に行っているから僕の担当はこの人だけ。

 右フックを避けながら屈み、足払いをかける。


「!」


 飛んだぞこいつ!

 このまま足を止めてもたもたしているとそのまま僕の膝を砕いてくる可能性があったので、そのまま自分の身体ごと勢いに任せる。

 すぐに立ち上がり、相手を見据える。


「何なの、あなた方は」


 女だ。

 ああ、よく見れば女性の身体の形をしている。

 めずらしいとは思ったけど不思議な事ではない。現にこっちだって咲夜さんを戦力に数えているし。


「何って探偵だけど」


 なにかの時間稼ぎかな。

 まだ何らかの隠し種があってもおかしくないし。


「探偵?」

「何か問題でも?」

「殺し屋まがいのことをしているのに?」


 やばい、それに対する反論を持ち合わせていない。

 どう言い返そうか悩む。

 ん。

 妙だな。僕と視線が合わない。どこを見ているんだ。


「正義の味方じゃないからね」

「…これじゃあどっちが犯罪者だか分かったもんじゃないわ」

「だろうね。でも、僕は僕のほうが正しいって信じている」


 歪みようもなく、歪んでいる。

 そのことを自覚しているが、だがそれは僕のアイデンティティみたいなものだろう。


 サービスタイムは終了、無駄なおしゃべりは店じまいだ。

 そのことを相手も感じ取ったのだろう。ほぼ同時に銃を上げる。

 そして――女は銃を僕ではなく、後ろに向けた

 最初から僕なんて狙っていなかったのか!

 自分の命を囮に、こうなるように時間稼ぎをして目測で標準を合わせて。


「所長!」


 ターゲットは振り返らずともわかる。

 ――間に合え!

 頭に当てる自信はない。ならば胴体に。

 引き金を絞る。


 女の心臓を破壊するより少し早く、銃弾は発射された。

 「あっ」と所長のいささか緊張感のない声が聞こえた気がした。

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