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アンティーク姫のいる探偵事務所  作者: 赤柴紫織子
小話 ブックボックス
53/278

二話 『額縁/机』

「ふーん…」


 姫香から渡された紙切れを読み終え、微妙な顔をしながら城野はため息をついた。


「で? どうするんだ、ヒメ」

「探す」

「言うと思ったよ」


 もう一度ため息をついて、息子夫婦を見る。

 二人は家具や小物が骨董屋に回収されて終わりだと思っていたはずが予想もしない方向に事態が進んでいるので戸惑っている風であった。


「すいません。少し探し物があるのでここを散らかしても?」

「だ、大丈夫ですが…。いったい何が?」

「いたずらに巻き込まれた形ですね。――それに」


 すでに近くの棚を調べ始めている少女を横目で見る。


「こうなるともう止められないんで。そこら辺は、頼みます」


 大変ですねと妻の言葉に城野は深く頷いた。

 どう手を付けていいものか、大人三人はただ少女の動きを見守るしかない。


 遠慮という言葉を知らないのか、レコードを一枚一枚取り出しては何かを確認したり、飾られたボトルシップを持ち上げてみたり屈んで足元のカーペットを捲る。

 成果は無い。

 そこまできて姫香は首をかしげた。二度瞬きした後に、例の地球儀のほうをみる。

 それからしばらく何か考えて、今度は息子夫婦のほうに顔を向けた。


「欲しいもの、ある?」

「え?」

「子供、地球儀。お前たちは?」


 義妹の口の悪さに内心青ざめながらも、慌てて城野が補足する。


「お子さんが地球儀欲しいって言ってたからそこに手紙を仕込んだのなら、あなた方もこの部屋にあるものと関連したところに手紙やなにかあるんじゃないかって、そういうことだよな? ヒメ」

「すごい翻訳能力ですね…」


 感心されてしまった。

 姫香は接続詞がいまだに下手くそなのと、なにかと情報が少ない喋り方をするために初対面者やあまり会話を交わさない相手だと意味が通じないことがしばしばある。

 一を聞いて十を理解しろと言う無茶ぶりをしていた先代の探偵事務所所長のおかげで彼女の言わんとしていることを知るのはあまり苦痛ではない。


 ーーいちいち意味をくみ取ってしまうから姫香の言葉が一向に発達しないという可能性もあるのではないかと、椎名百子は言っているのだが。彼女の教育方針について城野と百子はたまに喧嘩をする。


「しかし…欲しいとはさすがに言ったことありませんわ…」

「例えばここにあるもので、彼との話題に出したものはありませんか?」

「それなら」


 妻は壁に掛けられたA4サイズの額縁を指さした。くすんだ真鍮色の、精巧な模様が彫られているものだ。

 飾られているのはサインから見るに故人が自分で描いたものらしい。


「お義父さんがそれを買ってきたときに『良いデザインですね』って褒めたことがあります」


 姫香がさっそく外そうとしたが背伸びしても高いところにあったために届かない。

 彼女の脇の下に手を差し込んでひょいと城野が持ち上げる。


「…子ども扱い、しないで」

「代わりにやったら怒るくせに…」


 額縁をひっくり返す。

 先ほどと同じ形の封筒が貼り付けられていた。


「これは奥さんの名前ですかね?」

「そうですね、わたしのです」


 いつの間にか息子夫婦が部屋に入って来ている。

 気になるのも仕方のない話だろう。

 生前がどういう人間だったか、生憎城野は知らないが先ほどの態度からしてあまりユーモアのある人間ではなかったようだ。

 無礼と無愛想の塊である姫香と仲良くしていたあたり城野としてはそれだけで奇人だと思っていたのだが。

 それなのに死んだ後にこんな手の込んだことをしているのだから驚くのも当たり前だろう。


「ここに住んでいるのは、ご夫婦とお子さんと…?」

「父を除けば三人だけです」

「と、なると」


 そこで城野は口を噤む。

 ここまでの流れとして、最後は息子だけなのだが。

 万が一、もしも手紙がなかったら気まずいとしかいえない。二人にだけ残しといて息子だけはハブというということも無きにしも非ずだ。

 探偵事務所は、いわば拗れた関係の人間しか来ない。この場合も多分拗れるに拗れる。


「そうですね…。この書斎机で小さなころはよく遊んだものですが」


 残念ながら息子は城野が黙った理由を分かってくれなかった。


 姫香は我関せずとさっそく机を調べ始めた。

 引き出しを上から順に開けていき、最後の段の取っ手を触ってわずかに顔をしかめた。


「どうした」

「鍵」


 見れば、最後の段だけ小さな鍵がついている。

 姫香は背を伸ばしじっと息子を見据えた。


「もうひとつ。なにか、ない?」

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