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アンティーク姫のいる探偵事務所  作者: 赤柴紫織子
二章 スナッフムービー
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十三話『四階→五階』

「飾りに隠されて気付かれなかったのは不幸中の幸いでしょうか」


 布きれをペタペタと触り、ボタンほどの大きさの機械を摘み上げた。

 姫香さんに持たされた盗聴器だ。即興で百子さんが縫い付けたのか、糸くずがついている。

 それを手のひらに載せると今度は鋏を手袋を嵌めているほうで持ち上げた。いつも思うけどそっちの手は握り方がぎこちないな。


「ふうん、裁断した後に突き刺しましたね。そうでなければこんなにべったり血がついているわけありませんし」

「服を裂いた後に何か揉めて、殺した後に姫香さんを一人で運び出したと…?」

「そうとしか考えられません」

「しっかし…新しいキャラクターが出てきましたね。その人はいったい誰なんだろう」

『探偵ごっこしている場合か』

「いや探偵ですからね僕たち」


 無粋なツッコミをしてしまったが所長の言わんとしていることは分かる。

 推理なんて悠長にしている場合ではないのだ。

 だけど、重要人物が死んでいて探している人の服が散乱しているのに知らんふりは出来ないだろ。


 咲夜さんは無事だった靴だけ持つと退出を促してきた。

 うーん、回収した姫香さんに履かせるのは分かるけど、それだと全裸に靴と言うマニア向けなことにならないだろうか。

 さすがに上着ぐらいは羽織らせてあげるよね。というかそれ僕の役目になりそうだな。


『…これでいいかな。四階だよね』


 廊下に出ると少し苛ただしげな声で百子さんが話しかけて来た。

セリフから察するに掌握は出来たらしい。でも満足は行っていないようだ。


『役に立たない。三階から上、室内にカメラとかつけられてないよ』

「さすがにそのモニターで堂々と殺害風景映されてたらやばそうですし」

『それに映る範囲狭いなぁ。ん、奥の方に二人が見える』


 ああ、あのカメラかな。

 可動式ではないようだ。

 意味もなく手を振ってみる。見事に全員からスルーされた。かなしい。


「これから五階に行こうかと思うんですが。誰かいたりとかします?」

『うん、えっとね――』


 百子さんが息をのんだ。

 何を見てしまったのだろう。


『え、ケンちゃん、これ、ヒメちゃん以外に』

『分かってる! 早く行け! 連中、これから『撮影』をおっぱじめるつもりだ!』




 姫香さん以外にもう一人『出演者』がいたらしい。

 そして今まさに引きずられているのを見たということだ。

 つまり撮影部屋があるということで、姫香さんも付近にいる可能性が近い。

 さっきの人たちは彼女の行方を知らなかったがこれから仕事・・にいそしむ人たちなら何か知っているかもしれない。


 非常階段が開いていたのは一階だけかもしれず、そうすると鍵を開ける手間がある。

 だったらたとえ危険地帯のど真ん中に飛び出そうともエレベーターを使ったほうが早いのは確実だ。

 そういうことでエレベーターに再び乗り込んだ。

 短い移動時間の中で僕は拳銃のセーフティを外す。既にマガジンはいれてある。


「…銃の扱い方、覚えているんですね」

「え?」


 チンと音がした。

 焦れるほどゆっくりとした動きで扉が開く。幸い誰もいない。


「独り言です。さてどちらから――」

『エレベーターを出て左、四つ目の扉。人間四人いた』

「なるほど。私が先導します」

「はい」


 言うが否や、咲夜さんは駆けだした。

 僕も遅れないようについて行く。

 エレベーターを出て左。ひとつ、ふたつ、みっつ、ここだ!

 ずいぶん頑丈そうな扉だ。蹴破るのは得策じゃなかろう。

 ものは試しとノブを捻ってみたがびくともしない。既に閉められたあとだったか。


「撃ちましょう、夜弦さん」


 返答はしないで、銃口を扉と壁の隙間に向けて発砲した。念のために三発撃ち、もう一度ノブを回すとすんなりと開いてくれた。

 さあ、今まではただのウォーミングアップだ。ここからだ。

 威嚇も兼ねて勢いよく扉を蹴り開ける。


 そこにはDVDで見た黒ずくめの人間たちがおり、茶髪の女性が今まさに磔台に拘束されているところだった。


『やれ』


 僕たちがうまく部屋に入れたことは音で分かったのだろう。

 所長は静かにそう言った。


『責任は俺が取る。ヒメの居場所を聞き出せ。どんな・・・手段・・でもいいから』

「分かりました」


 詰め寄ってきた一人の鎖骨部分を銃底で殴る。

 なかなかいい感触がした。もう一方も追っておく。

 これでよほど痛み耐性が無ければ動けまい。記憶の奥底にそんな知識がある。


「すいません、お聞きしたいことがあるんですけど」


 まあ、強制的に聞き出すのだが。

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