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アンティーク姫のいる探偵事務所  作者: 赤柴紫織子
九章 ヘルタースケルター
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八話『鬼門』

「百子さん!」

『え! はい!』

「所長と合流しました! 神崎は、今どこにいますか!?」

『――ごめん、神崎の外見教えて!』


 あ、そうか。百子さんは知らないのか。

 僕は必死であの男の顔を思い出す。特徴らしい特徴がない。いけすかないのは第一印象であったけれど…。

 迷っていても仕方ない。ざっくりでもいいから伝えないと。


「人でなしみたいな顔してる男です」

「自己紹介か?」


 所長がなんか言ってる。

 いや僕が人でなしみたいな顔をしているわけないじゃないか。


『ぜんぜん分からないけど…』

「姫香さんと、多分女性もいます」

『あ、今二階に降りたこの人達かもしれない』

「何処に向かっていますか!」

『ここだと――そのまま下に降りるか、それか…二階には立体駐車場に繋がる通路がある』


 立体駐車場。本当に逃げるつもりなのか?

 だとしたらどうして僕をここに呼んだんだ。僕を殺したいのではなかったのか。

 神崎は、まるで自身を餌として僕をおびき寄せている。その意図、そして終着点は何だ?

 気味が悪い――。


『とりあえず降り――』


 百子さんが息をのむ音。


「百子さん!?」

『まずい、こっちにも手回しされていた…!』


 多分定時連絡が途絶えたことで、設備管理室がこちらの手に落ちたことが分かったのだろう。

 神崎は百子さんが『鴨宮』の人間であることをリサーチしている。そして今の僕たちの中に彼はいないことを神崎は見てわかったはずだ。だから設備管理室を陣取っているのではないかと目星をつけて部下を向かわせたとしても、おかしな話ではない。


『…え? はい、はい! 平気です!』


 前原さんから何か伝えられたらしい。

 一瞬ためらった後に、百子さんは言う。


『こっちは大丈夫だから、あの人たちを追って! 手遅れになる前に!』


 その言葉を最後に、通信が切れた。――いや、わざと切ったのか。

 心配を掛けられたくないという気持ちがその裏に滲んでいるが……。この状況で心配しないなんて、無理だ。

 国府津家の人間である前に、探偵事務所の一員だ。見捨てるなんて出来ない。


「何があった」


 所長が神妙な顔で僕を見ている。

 同じ通信を聞いていた咲夜は躊躇うような表情の後に口を開いたが、僕は制止する。


「設備管理室にいる百子さん達が襲撃にあったようです」

「…モモと誰がいる?」

「前原さんです」


 数瞬何かを考えた後に咲夜のほうを向く。


「…前原さんは、戦えるのか」

「ええ。それなりには。期待はしないでいただきたいですが、血には慣れています」

「なら、神崎を追うぞ」


 予想外の答えに、僕は驚く。

 てっきり百子さんの方へ行くものだと思っていたから。

 百子さんが『鴨宮』に連れていかれたときの動揺を見ていた身としては、むしろ今の方が心配だ。


「いいんですか…?」

「あいつは俺と地獄の果てまで付き合うって言ったんだ。だったらとことん付き合ってもらう」

「……」


 その覚悟に甘えていいのだろうか。

 いや――今は甘えることしかできない。戦力はひとりでも多いほうがいいから。


「ヒメを取り戻して、神崎をぶちのめしに行くぞ」


 僕らは頷いた。

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