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アンティーク姫のいる探偵事務所  作者: 赤柴紫織子
九章 ヘルタースケルター
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六話『餓鬼も人数』

 こちらに走りながら振りかぶられた斧。普通に怖い。

 だけどひるんでいる暇はない、僕はその着地点を予測して動く。

 相手の足元に向かって飛び込んだ。腕、背中の順に転がりながらホルスターから銃を抜く。

 真上には斧男の頭。唐突に自分の下に潜り込んできた人間へアホ面を向けた。その顔へ、銃弾を叩きこむ。歯と目が爆ぜた。


 手から滑り落ちた斧を拾うと、僕の動きを追ってきた人間の顔面へと刃をめり込ませる。そのまま押し込み、地面へと倒れさせて斧を抜く。

 横なぎに斧を振り、他の敵の首を跳ねる勢いで討つ。さすがに首は取れなかったけれど。

 すでに真正面から襲い掛かってくるのがいたので斧から手を離し、拳を握る。

 鼻面に叩きこみ、反射的に閉じた目へ瞼ごと指を突っ込んだ。つんざくような悲鳴が上がる。…僕も咲夜のこと言えないな。

 悲鳴にひるんだ他の連中へ僕は躍りかかる。

 銃を向けてきた奴が視界の端に映った。僕が反応するよりも早く、咲夜が射撃する。持ち主の死んだ銃を拾い上げようとした者もまた咲夜の銃撃の餌食となる。

 邪魔だなアレ。周囲に群がる敵を避けながら床に転がる銃を拾い上げ、味方のいないほうへ適当に撃っていく。即死とは至らなくとも何発か当たったようだ。

 咲夜も、僕がいるところには向けられないにしてもそれ以外には思う存分撃ってほしい。少なくとも僕よりは銃の扱いが上手いので。


「くっそぉ! ロケットランチャーとかねえのか!」


 所長が叫んでる。

 あっちもあっちで大変みたいだ。


「ありませんよ! 第一扱えるんですか!」

「説明書読めば何とかなりそうだろ!」

「なるわけないでしょうが!」


 馬鹿やって場合じゃねえ。

 こういう大乱闘の場に所長は不慣れっぽいし、ああやって軽口叩けるならまだメンタルは大丈夫そうだ。

 腕がもげることよりも足が裂けることよりも厄介なのは、この場でしり込みしてしまうことだと僕は思う。


 間近に迫ってきた奴らにありったけの弾をお見舞いし、弾薬が無くなった拳銃の底で僕を抑え込もうとする奴のあばらを折る。これだけでは足りないのでおもいっきり胸部を殴る。後ろ向きに倒れた。心臓が止まっているといいんだけど。

 あと何人いる? 確かにロケットランチャーが欲しいな、ぐずぐずしていたら神崎が逃げる。


 人が減っていき、視界が開けて来た時だった。


「所長ッ!」


 咲夜の鋭い声が背中で聞こえる。


「サク!」


 続けて所長の焦燥に満ちた叫び。

 目の前にいる敵を相手にしながらちらりとそちらの方向を向く。

 ――咲夜が、男に首を掴まれて宙づりにされていた。確かあいつ、所長を三発殴ったとかいう奴だ。


「……」


 僕は視線を戻し、迫ってくるパンチを受け止めた後に相手の肘を破壊した。その勢いで首も折る。


「おいおい、どうしたよ国府津夜弦! お仲間が死にそうだぞ!」


 なんで僕の名前を知っているんだろうと思ったけど、神崎が事前に教えていたのかもな。

 不快だなぁ。


「うっ…く」


 首を絞められているのか苦し気なうめきが聞こえた。

 所長が銃を向けるも、咲夜が盾にされている形なのでやみくもには撃てない様子だ。


「お前以外は殺していいって言われているんだよ! 目の前でこの女の――」

「咲夜」


 僕は言葉を遮る。これ以上イライラさせるな。


「相手に合わせておままごとしている場合か? そのぐらい、どうにかしろ」


 一瞬の沈黙。

 次には、咲夜のため息が漏れる音がする。

 彼女の義手のモーター音が早く回る音ともに、指が男の肉にめり込む。腕の一部を千切り取った。


「なぁっ!?」


 驚愕と激痛から男は咲夜から手を離す。彼女は即座に距離を取り、咳き込んだ。


「…一瞬パニックになりました。というか、心配しても罰は当たらないとは思うのですが」

「減らず口が叩けているなら大丈夫だな」


 咲夜は不満げな顔をして目の前の巨体の男を見る。

 腕から大量の血を流し、余裕の色は目から消えていた。代わりに怒りの火が灯る。

 …体格的にも、所長を守りながら戦っている咲夜には荷が重いか。


「もう敵もこれだけしか残っていないよ? 早く神崎を追いかけなよ、お兄さん」


 かみさまが僕の視界にひょこりと現れて言う。


「黙ってろ」


 黙ってろ。僕の事は、僕が決める。

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