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アンティーク姫のいる探偵事務所  作者: 赤柴紫織子
九章 ヘルタースケルター
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五話『疑心暗鬼を生ず』


 室内なので煙はすぐに晴れない。

 それは僕らの現在位置を隠しておくのにはとても好都合だけど、同時に不便でもある。神崎たちの動向をすぐに把握することが出来ないのだ。

 つまり、互いに互いがどこにいるのか良く分かっていない。

 駄目やん!と思われても仕方ないけれどたった二人で突入し、加えて人質の救出も考えるとこれが最善にして唯一の手段であった。


「所長、姫香さんは?」

「あっちだ」


 指さされた方向を見るも、白い煙が光を浴びて壁のように輝いている。その向こうは見えなかった。

 下手するともう逃げていてもおかしくないし、それかこちらに標準を合わせているかもしれない。


「咲夜!」

「ここに!」


 深々と義手の親指を相手の目に突き立てながら、咲夜が現れた。うわぁえっぐい攻撃してるじゃん…。でも「手段を選ばずに敵をほふれ」と教え込んだのは僕なので何も言えない。

 僕が銃を手にすると咲夜も頷いて同じように武器を手に取った。

 手振りで恐らく姫香さんがいる方向には撃たないように指示をして、僕は安全装置を外す。そうしてまずは迫ってきた敵の一人に弾丸をくれてやる。

 銃声が響き、あたりは一瞬静まり返る。その隙を逃さずに僕は叫んだ。


「そっちに行ったぞ!」


 適当な場所に撃ち込むと偶然にも当たったのかうめき声が聞こえる。

 立て続けに撃った。


「後ろにいる!」


 空気が変わる。困惑が、動揺へと移っていく。

 全員が全員騙されてくれるとは限らないがそれでも揺さぶりをかけるにはもってこいだろう。

 周りが良く見えない中、攻撃されるというのは恐怖でしかない。

 出来れば疑心暗鬼になって同士討ちをしてくれると楽なんだけどな――と思ったところで、悲鳴があがる。どうやら思惑通りに行ってくれたらしい。

 咲夜も別方向に撃っていく。


「そいつだ、殺せ! 殺されるぞ!」


 畳みかけるように怒鳴る。

 演技はお世辞にも上手い方ではないが、緊迫した状況がカモフラージュしてくれたらしい。

 隣にいるものは味方なのか敵なのか――。

 判断しようとする前に弾が飛んでくる。冷静を削がせ、怖れを増大させていく。

 僕ら『国府津』の暗部が大人数で行動しないのは、こういった事態を避けるためだ。当然一人一人に負担は大きくなるけれど、同士討ちをして被害を大きくさせるよりはマシということらしい。

 まあ、他の諜報部…特に血気盛んな『真鶴』なんかは毎回味方側から死者を出してもなんとも思っていない節があるけど、あれは異常なので除外する。

 あたりがパニックになってきたところで所長を引っ張って煙の中を走って行く。

 目指すは神崎と姫香さんのところ。


 煙を抜けたところで大きな影が目の前に立ちふさがった。

 とっさに所長を突き飛ばし、僕は防御姿勢に入る。とっさに盾に使った拳銃に斧の刃が突き刺さった。まだ弾残っていたのに。

 190センチはあるだろう男が壁のようにそびえ立っている。

 その後ろで神崎と姫香さん、後何人かが共に奥の暗がりへ去っていくのが見えた。

 僕の視線に気づいたか神崎がわずかに立ち止まり、唇を吊り上げて笑った。


「僕を呼んでおいて、それはないだろう!」


 感情に任せて叫ぶと、神崎は口の動きだけで答えた。

 ――ここまでおいで。

 どれだけ…どれだけ僕をおちょくれば気が済むんだ、あのクソ野郎!


 今すぐ追いかけようとするも斧男やめいめいに武器を持った男たちが行く先を遮る。

 ここを咲夜に任せるには酷だ。なにより、彼女には所長を守ってもらわなくてはならない。

 さっさと殺して、追いかけないと。


「ツル」


 ぎこちない発音で所長は囁く。


「こいつ、さっき俺のこと殴った」

「何回?」

「3」

「じゃあそれ以上殴りますか」


 鬼っていうのは地獄にいるもんだからな。

 ここが地獄になったほうが、住みやすくなるだろう。

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