閑話『六年後』
「なんかこうやって三人で帰るの、久しぶりだね」
ブレザーを着た夏梨は懐かしそうに言う。
それを聞いて、学ランを身にまとう大地と林太も頷いた。
「それぞれ部活とか委員会とかあるからなぁ」
「テスト期間だけじゃないか? みんなの帰宅時間一緒なの」
「ふふっ、こうしていると小学生のころを思い出しちゃう。あの時は毎日みんなで遊びまわっていたねえ」
「あの頃に帰りてえよ俺は…」
「あの頃に戻ったところで大地はゲームしかしてねえだろ」
口々に言いあいながら、コンビニに寄ろうと普段の帰宅ルートから外れる。
その先で三人は、自分たちと同い年ぐらいの少女が道の真ん中であわあわとしているのを発見した。
夏梨は「私立高校の制服だ」と呟いた。彼女は制服の可愛らしさからその私立高校を志望校として視野に入れていたことがある。偏差値が高すぎて諦めたが。男子二人は興味がなかったので知らない。
少女は、学校帰りというには大仰すぎる、白いキャリーケースを足元に置いていた。
「どうする? 困っているみたい」
「そのままスルーもできないな」
「話しかけてみるぐらいならいいんじゃね?」
そういうことになり、同性が話やすいだろうと夏梨が近寄って声をかける。
「こんにちは」
「こんッ、あ、あの…あのあのあの」
少女は一瞬驚いたような顔をした後、今にも泣きそうな表情になりながらどうにか答えようとした。
「わ、わ、わたし湯河原さくらって言いますけど、あの、」
「落ち着いて落ち着いて。何かあったんですか?」
こくこくとさくらは頷く。
どうやらパニック状態な上に、人と話すのが苦手なタイプらしい。
夏梨に応対を任せることにした男子二人は後ろでじっと事の成り行きを見守る。
「こ、このあたりに、探しているところがあって、で、で、でも見つからなくて…」
「どこですか?」
「し、城野探偵事務所って言うところで…あの、でも地図間違えちゃったかもしれないんですけど…」
三人は顔を見合わせた。
小学生の頃によく遊び場にしていた場所が出てくるとは思わなかった。
「城野探偵事務所ってたしか…そう、アンティーク姫だ」
「誰だっけ」
「ほら、あの黒いドレス着たお姉さん」
「あー、林太の初恋の人な」
「うるせえ!」
こほんと林太は咳払いした。
「たぶん、地図は合ってるよ」
その言葉を聞いてさくらの顔色は少しだけ明るくなる。
「え、え? そうですか?」
「うん。でももう、目当ての建物はないかな」
「へ?」
ぽかんとする少女の視線を誘導するようにして、林太はすぐそばにある駐車場を指さした。
砂利の敷かれた、六台ほどスペースのある月極駐車場だ。フェンスや看板の剥げ具合から、それなりの年数が経っていることが伺える。
「俺たちが小学生の時に無くなっているんだ」
さくらは事情が呑み込めていないという表情で駐車場を呆然と見る。
その横で、夏梨は寂しげにつぶやく。
「下にあった骨董屋も、アンティーク姫も。みんなみんな、いなくなっちゃった」




