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アンティーク姫のいる探偵事務所  作者: 赤柴紫織子
五章 シークレットパーティー
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二十一話『殺すタイミング』

 僕が事務所にはいるとぐったりとしたメンバーが目に入った。

 見慣れたところにたどり着けたので緊張の糸が解けたというところだろう。特に百子さんは珍しくソファに倒れこんでいた。咲夜さんは反対側のソファにもたれかかって天井を見ている。

 姫香さんは靴を脱いで裸足でペタペタと歩き回っていた。かわいい。


「おうツル、なんだって?」


 いつもの席に座っていた所長は胸元のシャツのボタンを外していた。

 この人フォーマルな服装苦手なんだな。思えば今までもちゃんと着ているところを見たことが無い。


「僕と添田君の秘密の話なのでないしょです」

「ふーん。コイバナか?」


 盛大にむせた。

 だってまさか一発で当ててくるとは思わなかったんだもの。ハッタリと言うよりはからかうつもりだったんだろうけど見事に当たってしまった。

 所長は呆れた顔をしたが深く追及はしないでくれた。


「……まあいい。おーい全員生きてるかー」

「無理~」

「私もう帰りたいです」

「……」

「お布団が恋しい」


 生きてはいるがやる気ゼロの所員たちだった。

 数々の心の声を無視して所長は話を続ける。今のはただ単に注意を引き付けるためであって気遣いの言葉じゃなかったんだな。


「手短に終わらすぞ。主催者が死んだということについてだ」

「あの」


 咲夜さんが小さく手を上げる。


「それは私たちに関係ありますか?」

「ない」


 所長はきっぱりと言い切る。

 一瞬で不機嫌な表情になった咲夜さんを彼は「まあ待て」と宥めた。


「でも正直気になるだろ。あれはドラッグパーティーだった、共通認識としてそこまではいいよな?」

「多分『そういう集まり』ってことで油断もあったんだろうけどいくらなんでも緩み過ぎって感じだね~…」


 普通に勧めてくる人間が居たぐらいだし。ラリってたけど。


「薬物とか売っていたんですかね。僕はそういうの見なかったのですが」

「ばぁか、あんなところで堂々と売るかよ。あそこで取引して後日現物ナマを渡すんだろ」


 それもそうか。


「緩み過ぎなのは思った。長年続いているそうだから気が緩んだんだろ。主催側も、参加側も」

「それで~? 何を言いたいの?」


 もったいぶるように所長は一拍あけて、言った。


今殺す・・・必要は・・・あったか・・・・?」

「……」

「……」


 言わんとしていることは、分かる。


「口封じだったのかもしれない。それとも怨恨か、復讐か、まあ理由はどうでもいい。不可解なのはタイミングだ」

「しかし、あそこでしか殺せなかったのだとしたらつじつまは合いませんか」

「サク、逆に聞くぞ。あんたはあの会場で俺を殺すメリットはあると思うか?」

「はぁ。条件としては?」

「そうだなぁ。でかい敷地のでかい家に住んでる。場所は特別隠されていない。金持ち。家族は数人、使用人もいる。警備もな。わざわざ外に出て仕事はしなくてもいい、指示だしするだけ。今回は久方の外出だった」

「それ『鴨宮』の実家じゃん! 悪意を感じるよ!」


 百子さんがなんか叫んでいた。


 咲夜さんは二、三度瞬きをした。

 恐らくは先ほどの会場を舞台にシュミレートしているのだ。


「…ありませんね」

「それは何故だ?」

「あんな一人につきボディーガードが数人つく会場では…そして自らの行為が違法だと知っている人が大半でしょうから、周りに対する警戒心もあるでしょう。それに主催者の周りがノーガードなわけありません。つまるところ、人目に付きすぎる」

「だとしたらどうする」

「直接家まで行って殺します。そちらのほうが静かですから。周到に用意すれば掴まりもしないでしょう」


 物騒だなぁ。


「だろ。うん、でもマジで俺んちに殺しに来るなよ」

「別に何も言ってませんが」

「目が怖い。あんた絶対脳内で俺を殺してんだろ、やめろ。俺が可哀想だから」

「ご安心ください。すぐには殺さないので」

「ひと思いに殺ってくれよ!!」


 話が脱線してきているので百子さんが「でもさ」と戻しにかかった。


「犯人はそんな危険をおかして何がしたかったのかな」


 起き上がった百子さんはスマホをタップしている。

 こうしている間にも情報収集をしているのだろう。所長が情報を求めているから、彼もまたそれを助けるために。所長は優秀な仲間をもっているなぁと場違いな感想を抱いた。


 所長は肩をすくめてみせた。


「見せしめ以外に何がある。ま、すぐに隠蔽されたが」

「いずれは表に出てくるよ~。『鴨宮』が掴んだんだから、他ももう知っているだろうね」

「…でも所長、見せしめって、見せしめですよね」

「見せしめだな」


 なんだこの頭の悪い会話。

 ええと、と再発し始めた頭痛と戦いながら考える。


「誰に対して?」

「そこなんだよな。モモ、心当たりは?」

「ん…そうだね」


 歯切れの悪い返事をして、百子さんは咲夜さんにスマホの画面を見せた。

 咲夜さんも渋い顔をして僕と所長を見る。


「言ってもいいかな…」

「ええ…そうですね…」

「気になるじゃねえか。もったいぶるなよ」


 小さな声で百子さんは言う。


「…以前、『鬼』への資金提供を行っていたという噂はあるね」

「……」

「……」


 反射的に僕は手を強く握りしめた。

 理由は分からない。


 神崎、『国府津』、『鬼』。


 もう少しだ。もう少し。

 何かが手繰り寄せられる。

 着実に『僕』に近づきつつあるというのは、どうしてか感づいていた。


 姫香さんは何か言いたげに僕を見つめていたが、視線が交わる直前にふいと逸らした。

 その横顔がなにか悲しげだったのは気のせいではない、だろう。




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