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アンティーク姫のいる探偵事務所  作者: 赤柴紫織子
五章 シークレットパーティー
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五話『渡会さんと添田君(と蚊帳の外の所長)』

 所長は気に入らなさそうに部下さん――藤岡さんを睨んでいたが、そんなことしても時間の無駄だと悟ったらしい。黙って空いている方のソファを指さした。

 それから添田君に顔を向けて一瞬前とは違う、済まなそうな表情を作る、


「添田青年、悪いんだが…」

「僕も話を聞いてよろしいでしょうか?」


 予想外だったのか、所長がずっこけた。

 百子さんも思わず二度見している。


「これはお遊びじゃなくてな…」

「分かっています。でも、僕もこれから行くところの事情を少しでも知っておきたいんです。お願いします」


 確かに面前で不穏な会話を聞かされていては心配にもなるだろう。

 添田君は普通の人間で、両親が死ぬまではただの学生だった。裏の社会のことも何も知らない彼には、今何が起きているのかはっきりとした理解も出来ていないはずだ。

 だから、知りたい。


「城野の言う通りだ。これは人に聞かせるようなものではない」

「でも…ここまで話しながら放り出すのは、酷いのではないでしょうか?」


 おお、添田君が反抗的だ。成長したな。悪い方向に。


 渡会さんは渋い顔をした。

 その隣で藤岡さんはただ肩をすくめただけだ。仕草と表情的に「あなたに任せる」という意味か。鉄壁の無表情ガール姫香さんとは違い、わずかながら顔の筋肉が動いているから読み取るのが楽だ。

 まあ何か起きても責任は上司である渡会さんに行くだろうしな。


「――まずは名前を聞こう。わしは渡会浅次郎、警視監だ。こっちは部下の藤岡大輔」

「どうも」

「へ、へぇ…?」


 だめだ、添田君なんのことだか分かってない。きょとんとしている。

 実を言うと僕も分かっていない。


「…上から二番目に偉い人だよ~」


 百子さんが独り言のようにフォローしてくれた。

 刑事ドラマ見ても誰が偉いとかまったく気にしないからなぁ。


「僕は添田洋一です。小さな会社の、跡継ぎ候補です」

「ふむ? パーティーには呼ばれたのかね」

「祖父がパイプを持っているらしくて、顔見せとして出席を促されました」

「こんなに若いのに大変な事だ。…さて」


 眼光鋭く、渡会さんが添田君を射抜く。

 怯えたらしく添田君の足がわずかに後ろに下がった。がんばれ。


「こうして名を教え合ったからにはただの他人というわけにはいかない」

「…おいクソジジイ」

「ここから先は君を関係者として扱おう。――だが、外部に漏らせばどのようなことが起きるか分からないようであればさっさと帰ったほうがいい」

「ここ俺の事務所なんだけど」

「理解しています。なんなら誓約書でも作りましょう。どのようなことでも知らないままなのは、気持ちが悪い」

「そういうの気にしなくていいんだよ本当に」

「…フ。いい返事だ」

「ねえいい話にまとめないでお願いだから」


 散々無視された所長が頭を抱えている。

 ちょっと同情をした。

 その横を姫香さんがすすすと通って迷惑な来客たちにお茶を出した。


「安心しろ城野、こき使うのはお前とゆかいな仲間たちだけだから。この青年はさすがに使いっ走りを頼まないよ」

「だってよ野郎ども。頼むから誰かこのクソジジイ蹴っ飛ばしてくれない? ツルどう?」

「それはさすがに…」


 藤岡さんすごい顔でこっち見てるし。冗談を冗談と受け取れないお堅い人なのかも。

 みだりにケンカを売る気はないので僕は気にしない様に目を逸らした。


「意思確認も終わったところで、肝心の話に入らさせてもらおう。藤岡」

「はい」


 事務所の人間には敵対心丸出しだったのに渡会さんにはそれまでの態度が嘘のように素直な返事だ。

 なんか姫香さんにしか懐かない野良猫を思い出した。骨董屋のそばに住んでいるみたいなのだが、彼女を除いた事務所メンバーには近寄ろうともしないのだ。

 長いことかかって懐柔したと言っていたので特別姫香さんがオーラを出しているわけではない。


「二週間後、都心から少し離れたところで行われるパーティーですが。政治家、有名人、金持ち――とにかく、金のある人間が集まります。ぎらぎらと着飾ってね」


 悪意に満ち溢れた言い方だなぁ。

 添田君は確認するように頷いた。説明に対しては文句もない。

 分かってて聞き流しているのか、嫌味に気付いていないのか。どっちでもいいか。いちいち目くじらを立てるのは野暮だ。


「それで、なにがあるっていうんだ」

「麻薬の取引現場となっている――というのが目下の噂です」



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