第95話
ビュッコックの案内で、警備部隊本部の建造物内に入った信康達。
警備部隊本部の建造物内に入ると、実用性を重視した内装で綺麗に掃除されていた。
警備部隊本部の建造物は二階建てで一階はエントランスに食堂、更に幾つかの部屋があった。
その部屋の一つに扉が開けっ放しになっており、其処から口論の様な声が聞こえて来た。
捜査状況で揉めているのか? と思うが信康はその話を聞く様な事はしない。
聞いても分からない上に、手掛かりすら見つかっていないこの状況で、話をしても無駄だと分かっているからだ。
「此処じゃ」
ビュッコックはある部屋の前で止まり、扉を開けて室内に入室した。
その部屋の中に入ると、棚が幾つもある。その棚には箱が置いてあり、箱の中には羊皮紙が束になって置かれていた。
「此処は?」
「資料室じゃ。此処に今迄このプヨ王国で起きた事件の捜査資料が置かれておる。えっと、あれは、何処じゃったかな・・・・・・・おおっ、あったぞ」
ビュッコックはその棚を見て何かを探していた。そしてお目当ての物を見つけて、箱にを棚から出した。箱にはラベルされていた。
信康はラベルを見ると「元奴隷連続殺人事件」とラベルに書かれているのを見た。
「これが今回の事件の資料なのか?」
「そうじゃ。確かこの中に今回の事件の目撃者の名前を記した物がある筈じゃ」
ビュッコックは箱の中に手を入れて、羊皮紙を出しては中を見る。
中身を見て「これではないな」とその羊皮紙を脇に避けて、また箱に手を入れて探す。
信康達もそれを手伝った。
そして、直ぐに目撃者の名前を記された資料を見つけた。
「これですね。事件の目撃者の名前を記した物は」
「おお、それじゃ。いや、早く見つかって助かったぞ」
探し物が早く見つかり喜ぶビュッコック。
「さて、どんな女子学園生達が見たのやら」
信康はそう言って、ルノワの手から資料を取り中を見た。
そして、そこに記された名前を見て驚いた。
プヨ歴V二六年六月二十七日。
同日の夜にトプシチェ王国から脱走し、我が国に亡命してきた元奴隷の民間人アーニー・ストライド(四十四歳)が殺害された現場で、犯人と思われる者を見た女子学園生から事情を聞き、その話を元に捜査を継続。
目撃者の女子学園生
アメリア・ロズリンゼ(十五歳)及びライリーン・ハイマサー(十五歳)。
「んなっ!?・・・・・・まさか、アメリアが目撃者だったとはな」
「誰だっけ?」
「ティファは顔は知っている筈だ。この前、レズリーがバイトしている喫茶店で見なかったか?」
「ああ、うん。妖精の隠れ家とか言う、あの結構美味い喫茶店」
「其処の橙色掛かった、茶髪の美少女店員だよ」
「あ、ああ。そう言えば居たね。そんな娘が」
ティファは言われて、漸く合致したみたいだ。
「このライリーンって娘は知らないが、アメリアとは何度か会っている上に、家にも行った事がある。俺が聞きに行けば、話ぐらいはしてくれるだろう」
信康がそう言うと、ルノワとティファは互いの顔を近づける。
「もう、お手付きにしたと思う?」
「そうじゃないか。じゃないと、家なんて知らないだろう」
「おいこらっ、其処。わざとらしく聞こえる様に話すのは止めろ。それと俺がアメリアの家を知っているのは、偶々あいつの親父と知り合いになったからだ。その縁でお邪魔しただけだよ」
「本当に?」
「ああ、本当だ」
「そうなのか。じゃが、今はその娘は家にはおらんぞ」
「何故だ?」
「事件の目撃者じゃからな。安全の為に学園の寮で暫く暮らす事になった。幸い、そのライリーンと言う娘の部屋に同居人が居らんので、その部屋に居るそうじゃ」
「そうか。それだけ訊けたら、もう良いや。ありがとな。爺さん」
「構わん。これで捜査が少しでも進展するなら、安いものじゃ」
そう言って、ビュッコックは手を横に振る。そして、信康達は警備部隊本部を後にした。




