第92話
傭兵部隊の兵舎を出た信康達は、先ずは兵舎の中庭に集められた。幾ら同じ傭兵部隊の隊員と言えど、顔を良く覚えていない者も居るだろうと思われたからだ。
ただでさえ、元々の第一次募集で集まった傭兵は三百人前後居た。それが二百人弱に減ったとは言え傭兵部隊の兵舎の改修工事で一月近く離れていたのだから、記憶が薄れていても仕方が無い話だ。
その上最近派遣されて来たばかりのレムリーア達、四百人もの新兵も居るのだ。本来ならば各小隊への組分けを行う筈であったが、グランの一件でいきなり実戦投入紛いな事件に介入する羽目になってしまった事実に同情は否めない。
なので少しでも新旧の隊員で交流を促す目的も兼ねて、先ずは捜索する隊員達にグランの似顔絵を渡す事になった。準備を終えた隊員達から、中庭に集められた。
信康とルノワとティファ、後何故かレムリーアも一緒になっていた。
「何で、お前は俺達と居るんだ?」
「実はレムはまだ~親しい人が居ません~」
「それで話をした俺達と一緒に行動する事にしたのか?」
「はい~そうなんです~」
この間延びした喋り方を聞いていると、やる気が削がれそうな信康達であった。
「どうします?」
「まぁそうだな・・・回復は得意と言っていたから、回復要員として一緒に行動するか」
「ありがとうございます~」
そうして待っていると、ヘルムートが中庭に現れた。
手には羊皮紙が、百枚前後も持っている。
「よし、皆集まったな? 今から全員にグランの似顔絵を渡す。お前等は四人から六人以上で一組になって、グランを探し出せ」
ヘルムートに四人から六人以上で一組と言われて中庭で待っていた隊員達は、傍に居る隊員と組んでからヘルムートから羊皮紙を貰い中庭から出て行った。
信康達がヘルムートの下に行くと、ヘルムートはレムリーアの顔を見て感心していた。
「ほぅ、ノブヤス。お前が進んで新入りを気遣うとは、言うと悪いが意外だな。リカルドやヒルダはともかく、他の奴等は俺が言って聞かせたのに」
「偶々だと思います」
「まぁ、女なのもあるかもしれんがな」
「総隊長、それは流石に傷付きますよ」
「そう思うのなら、兵舎でするなよ」
信康はするなと言われて、何をするなと言っているのか分からず少し考えた。
そして何をするなと言っているのか、漸く分かった。
「・・・・・・善処します」
「善処ではなく、自重しろ。と言うか真面目な話、風紀が乱れる」
「すみません」
此処は素直に謝る信康。
どう見ても自分が悪いので、潔く謝罪するしかない。
「まぁ親しくしたい理由も、分からないでもないがな」
ヘルムートはチラリとレムリーアの身体を見る。
身長は平均女性としては低く小柄な方の体躯だが、女性の象徴といえる物はボンっと突き出ていた。
その大きさは、果物で例える事が出来ないくらいの大きさだ。
あえて言うのであれば、それは爆乳といえるものだった。
それでいて尻も、同じ位に突き出ている。
魅惑的な体型と言えた。
レムリーアは自分の身体が観察されているのも知らず、首を傾げる。
「コホン。まぁ、今は仕事に集中する様に。これが似顔絵だ」
ヘルムートから渡された似顔絵を見る信康達。
年齢は二十代ぐらい。
このガリスパニア地方では、珍しい黒茶色の髪。
精悍な顔付きの男性だ。
「グランはパリストーレでやった戦争で活躍した一人でな。リカルドと共に敵の本陣に攻め込み、副団長と側近の将校数人を単騎で討ち取った程の強者だ。ノブヤスやリカルド、バーンと同様の勲章も授与されている」
「それはまた・・・」
信康は似顔絵をじっくりと見た。
そして、中庭を出て捜索する信康達。
ヒョント地区全域を傭兵部隊全員で探したが、その日は見つからなかった。
明日は捜索範囲を広げて探す事になった。
プヨ歴V二十六年六月二十七日。深夜。
今度はケソン地区で、民間人の死体が見つかった。
犯人は捕まらず、未だに逃走中と新聞では報道された。
死因は鋭利な刃物で斬られた出血死と断定された。
未だに犯人の断定に至ってはいないが、候補としてグランの名前があげられた。




