第91話
信康達が改築を終えたばかりの、傭兵部隊の兵舎に帰還して来た当日の夜。
その間に傭兵部隊の隊員達も、徐々に戻って来た。
新しい兵舎を見て驚きそして信康達の食後に、兵舎増築記念と銘をうって宴会が行われた。
料理など無いただの酒宴であったが、それでも隊員達は酒が飲めて満足していた。信康は参加しなかったが、ティファは参加していた。
ルノワも信康と同じく、参加しなかった。
そうしている間に、時間は過ぎて行った。
プヨ歴V二十六年六月二十六日。兵舎の食堂。
「あたまいたい・・・・・・・」
「飲み過ぎです」
ティファは飲み過ぎて、グロッキーな状態であった。
というよりも、食堂にいる隊員達の殆どは揃いも揃って二日酔いであった。
昨日の酒宴は、夜を通して行われたみたいだ。
どれほどの量を飲んだのかは、信康は知らない。しかしこの食堂が少し酒臭いので、これはかなりの量を飲んだのだなと思っていた。
当然だが信康達は参加していなかったので、二日酔いにはなっていない。
頭を痛そうにしているティファを見ながら、信康達は朝食を食べている。
「まぁ、これからは飲む量を考えてから飲む事だな。勢いに任せて酒を飲むから、二日酔いなんかになるんだよ」
「ええ~、あたしにそれは~ぜったいむりだから~」
「また、二日酔いになっても知りませんよ?」
「それは、こまる・・・でもさけをのむのだから、ふつかよいはするもの」
「「それは飲み過ぎなだけだ(です)」」
信康達に言われて、ティファは何も言い返せないみたいだ。
二日酔いに苦しんでいるティファに、苦笑する信康達。楽しく朝食を取っていると、食堂にヘルムートが入って来た。
久しぶりに顔を見たなと思っていると、ヘルムートがブスっとした顔をしていた。
その表情を見るに何か気に入らない事でもあったのかと、全員が勝手に想像した。
誰かが何かあったのかと聞く前に、ヘルムートは口を開く。
「お前達と再び、会えて嬉しく思う。本当は今夜あたり宴会を開きたい所だが、上層部から特命が入った」
特命と聞いて、二日酔いで不調な隊員達も何事かと顔をあげる。
「第一次募集で来た傭兵。つまりは傭兵部隊おれたちの仲間だな。その一人と、連絡が取れなくなった」
ヘルムートの言葉を聞いて、隊員達はざわつきだした。
昨日の段階で既に傭兵部隊全員戻って居ると、全員は思っていたので衝撃だったのだろう。
「連絡が取れなくなったって事はそいつ、契約を解除する心算なのか?」
「だったら放っておきゃ良いだろう。何で特命なんか来るんだよ!?」
各々で自分の意見を言い合うが、どれも本当なのか分からない。
「やかましいっ! 静かにしろ!!」
ヘルムートの一喝で全員、騒ぐの止めて静かになった。
「その連絡が取れなくなった隊員・・・いや、元隊員を探し出せ。抵抗するなら」
ヘルムートは言葉にせず、親指で首を掻き切る仕草をした。
元とは言え嘗ての同僚を捕まえるのに、それほどの事をするとは思えず全員が生唾を飲んだ。
「それが特命なのが分かったけどよ。その連絡が取れなくなった元隊員って誰なんですか?」
隊員の一人がそう聞くと、ヘルムートは厳かに口を開く。
「その隊員の名前は、グラン・マクラオンだ」
「・・・・・・あいつか」
「確か前の戦で、名を上げた隊員の一人だよな。ノブヤスやリカルドが上げた手柄がデカい所為で、活躍が隠れちまっているがっ」
「ああ。元々、『風切り』っていう異名持ちだったな」
隊員達が次々と、グランの素性を話し出した。
「特命は以上だ。お前等も直ぐに取り掛かってくれ。俺も捜索に出る」
食堂に居た隊員達は酔いを醒ましながら、自分の部屋に行き得物を取って来る。
信康達も朝食を食べ終わると、直ぐに食堂を出て自分達の部屋に向かう。




