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信康放浪記  作者: 雪国竜
第一章

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第90話

 ティファの荷解きが終わり、信康が一息ついていると、部屋の扉がノックされた。


「誰だい?」


『ルノワです』


「どうぞ、入りな」


 ルノワは扉を開けて部屋に入ると、信康が居る事を確認した。


「やはり、こちらに居ましたか」


「何か用でもあったか?」


「いえ、特にありません」


 ルノワはそう言って、近くの椅子に座る。


「今夜はどうします?」


「うん? 食堂に行けば食べれるだろう」


「それが、先程管理人に聞いたのですが・・・今日はまだ食堂は活動していないそうです」


「何時の間に聞いた?・・・まぁ、良いや。それよりも何で食堂がやってないんだ?」


「何でも契約によると、兵舎が活動する二十六日以降から出勤と言う事になっているそうでして・・・食事がしたければ外食するか、食材持参で厨房で調理するしかありません」


「ええ~、本気(マジ)で!?」


 ティファは大きな声をあげる。


「なので、どうしますか?」


「・・・・・・・ならルノワが言う様に俺達はレズリーがバイトしている喫茶店(カフェ)に行くか、それとも食材を買って作るかだな」


「それしかないな」


「では、どちらにします?」


「それで、今回の料理番はどうする? 俺がしようか?」


「でしたら、お手伝いします」


「そうだね、皆でした方が早いよ」


「じゃあ、食材を買って料理を作るか」


「そうしましょうか」


「私はどっちでも良いよ」


 信康達はそう決めると、中年女性の管理人に一言言ってから兵舎を出た。


 近くの店で適当に食材を買って、兵舎に戻り厨房に食材を置く。


「一通りの食材は買ったから、何か出来るだろう」


「ですね」


「じゃあ、早速作るか」


 ティファがそう言って、大きな肉の塊を一口大の大きさに切り、塩胡椒で味を付けて焼いた。


 肉を焼いている間に野菜を適当に切り、肉を焼いているフライパンに投げ込んだ。


 そしてフライパンをしきりに動かした。


「なぁ、それは何を作っているんだ?」


 信康は気になって訊ねた。


「これかい? これはね。あたしが旅した国で郷土料理で野菜炒めだよ」


「野菜炒め? 炒めるとは確か・・・中華共和国の料理法だったな」


 信康の故郷である大和皇国が属する東洋世界にある大国で、単純な国土面積は大和皇国の二十倍以上はある。


 その国土の広さに比例して国境が多くの敵国と隣接しているので、諍いが絶えないと言う戦国乱世の真っ只中に居る。


 元々軍事大国として知られているが、最近では更に外国勢力に対抗すべく富国強兵を勤しんでいると言う話も聞いていた。


「あの国って何百年も前から戦乱が続いているからな、稼いだか?」


「まぁね。かなり稼げたわ。その時に覚えたのが、この料理だよ」


「へぇ、そうなのですか」


「最後に醤油(ソイソース)は無いから、代わりにこの魚醤で味付ければ完成!」


 更に盛り、匂いを嗅ぐ信康。


「ああ、何かこの匂い似ているな」


「そういや、ノブヤスは東洋圏の出だったね。醤油が恋しいかい?」


「まぁ、そうだな」


「何ですか? その醤油とは?」


「俺の故郷に伝わる調味料だ。大豆と言う豆を加工する事で、作れる万能調味料だ」


「私も一度使った事があるけど、中々使い勝手が良くて美味しかったね」


「そうなのですか?」


「ああ。しょっぱいんだけど、使い勝手が良い調味料だな」


「成程」


 ルノワはそう話している間にも、手を動かして料理を作っていた。


 作っている料理はパスタに黒いソースを和えている。


「ルノワ、それは?」


「これですか。これは私の部族が良く作る、郷土料理みたいなものですよ」


「郷土料理か、そのソースはどうやって作るんだ?」


「これはですね。キノコを軽く湯がいて、ベーコンとチーズと切った葉野菜を入れて炒めて水を足して、塩胡椒で味を付けたものです」


「それで黒いのか」


「はい。食べると美味しいですよ」


「そうか。俺はまぁ、手早いこれにしたがな」


 そう言って信康が皿に盛ったのは、挽き肉を固めて焼いた物をパンに挟んだものだ。


「何だ。これはサンドイッチか?」


「見た事もないですね」


「これはな、ハンバーガーという食べ物だ。ドロイセンと言う国の郷土料理だ」


「へぇ、サンドイッチの親戚みたいなものか?」


「そんな所だ。じゃあ、早く食べようぜ」


 信康達が食堂に行くと、丁度食堂に入る者が居た。


「わあぁ~何だかとっても~良い匂いがします~」


 初めて見る顔の女性だった。


「「「誰だ(ですか)?」」」


 信康達は誰だと訊ねた。


 信康達は誰何すると、その女性は応えた。


「初めまして~レムはレムリーア・フリシアンと言います~どうぞ気軽にレムと呼んで下さいな~」


 語尾を伸ばすので、どうものんびりな印象を抱かせる女性だった。


 垂れた目。桃色の髪。可愛い顔立ちの女性だ。


 耳の上あたりから短い角を生やしており、更に耳が牛の耳を形をしているので、どうやら牛型獣人と思われた。牛型獣人には、大まかに分けて二種族居る。


 乳牛種(ホルスタウロス)闘牛種(ミノタウロス)だ。


 どう違うのかと言うと前者の乳牛種は肉弾戦も出来るがそれ以上に魔法が得意で、主に魔法使い(ウィザード)か僧侶と言った職業に就いている。


 逆に闘牛種は魔法は苦手で肉弾戦が得意なので、戦士や重装騎士などの職に就く。この二種族の共通点は、どちらも膂力の持ち主だと言う事だ。


 後の相違点となると、それぞれの容貌が違う。乳牛種の毛皮が白黒に対して、闘牛種の毛皮は黒、茶、白、灰色と多種ありどれか一色だ。


 このレムリーアと言う牛型獣人の毛皮は白黒なので、乳牛種の様であった。


「これはご丁寧にどうも。私はルノワと言います」


「あたしはティファだよ」


「俺は信康だ。お前、見ない顔だな。新入りか?」


「はい~そうなんです~。これから~よろしく~おねがいします~」


「「「・・・・・・・・・」」」


 間延びした喋り方なので、変に疲れそうであった。


「でも、新入りが来るのはまだ先じゃないのか?」


 ヘルムートは傭兵部隊の兵舎の改築工事を行う二日前に早ければ二ヶ月後、遅くとも三ヶ月後に来るとか、以前そう言っていた筈だと思い出す信康。


「流石に八百人が~一気に来ると色々と面倒なので~二つに分かれて来ました~、レムはその第一陣です~、それから何か~カロキヤの動きがきな臭いから~予定を大幅に前倒しにしたとか~言ってましたね~」


「そ、そうか」


 間延びした喋り方だが、分かるように説明してくれて助かる信康達。聞き捨てならない台詞が聞こえた気がしたが、今はそれどころでは無かった。


 そのレムリーアは信康達の料理を見て、生唾を飲み込む。


「美味しそうですね~」


「お、おう・・・・・・食うか?」


「良いのですか?~お腹が空いているので~すっごく嬉しいです~」


 信康はレムリーアに自分が作った料理を渡して、厨房に入って自分の分を新しく作り出した。


 その後は四人仲良く食事を始めた。


 食事の際で信康はレムリーアが達の第一陣はどれくらい着たのか、それとレムリーアはどんな方法で戦うのか訊いた。


「そうですね~第一陣は私を含めて半分の四百人程です~因みにレムが得意なのは魔法で~回復ヒール魔法が得意です~、得物は~星球式鎚矛(モーニングスター)を使っています~」


「星球式鎚矛か。何と言うか、牛型獣人らしい得物だな。それにしても回復魔法が使える魔法使いとは、レムは神官か何かか?」


「はい~レムが信仰するのは~重鎧土獣王(ベヒモス)という精霊です~」


「重鎧土獣王?・・・確かその精霊は、土の最上位精霊の一体ですね」


「使役しているなら精霊使いだが、信仰となると精霊信仰者か」


「そうなりますね~」


 精霊信仰者とは、その名の通り特定の精霊を信仰する信者だ。


 主に信仰される精霊は、主に各属性の上位精霊か植物の精霊を信仰されている。


 植物の精霊を信仰する人は大抵、ドルイドと言われる僧侶の一変形の職に就いている者が多い。


「つまり、お前は土魔法を使えると思って良いのか?」


「そうですよ~でも一番得意なのは~回復魔法ですね~」


 レムリーアはハンバーガーを美味しそうに食べながら、「おいしいれす~」と言いながら頬袋に一杯に溜めて食べる。


 信康達はレムリーアの食べている顔を見て、何故かほんわかしていた。


(何か、こいつの食べている顔を見るとホッとするな)


 レムリーアの食べている様子を見ていると自分が見られているのが分かり、食べるのを止めて首を傾げる。


「ん? ~どうかしたのですか?~」


「いや、何でも無い」


 頬にパンの食べ滓などをつけながら傾げるのを見て、信康は可愛いと思ってしまった。


(というかこいつ、本当に傭兵なんか出来るのか?)


 どうもそうは見えないと思う信康。


「お前さ、本当に傭兵なのか?」


「そうですよ~」


 その返事からも、どうにもそうは思えない信康。


(後方支援要員寄りの隊員か。でも傭兵部隊はどちらかと言うと敵陣に突っ込まされるのが仕事だから、牛型獣人特有の膂力に期待しておくとするか。それに回復魔法が使える奴が来てくれたのは、大歓迎だな)


 信康は傭兵部隊に回復要員となる隊員が来てくれた事実に、素直に喜んでいた。


 戦場では数分数秒の遅れが、生死を分けるのだから当然の話だ。


「これで傭兵部隊うちから死ぬ隊員奴等が、少しでも減ると良いんだがな」


 パリストーレ平原の会戦では、傭兵部隊から百人近い隊員が戦死してしまった。


 顔も覚えていない隊員達ばかりであるが、やはり同僚が死ぬのは気分が良くなかった。


「これからよろしくな。頼らせて貰うぜ?」


「はい~よろしくお願いしますね~」


 その後は信康達は、四人で雑談を興じた。

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