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信康放浪記  作者: 雪国竜
第一章

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第88話

 プヨ歴V二十六年六月二十五日。


 信康達は夕方頃になるとアパートメントの前まで移動すると、見送りに来てくれたカルレア達に感謝を述べた。


「いえ、少しの間でしたが楽しかったですよ」


「そうか。それは良かった」


 カルレアが笑顔でそう言うので、信康は苦笑した。そして、セーラ達と向き合う。


「お前等にも世話を掛けたな」


「いえ・・・私は別に」


「まぁ私はそうだよね。色々とされたのだから」


 セーラは何でもないと言うが、キャロルは信康がした事に嫌味を言う。信康も自分でした事なので、反論も出来なかった。なので、何も言わず苦笑していた。


「最初こそどうかと思ったけど・・・・・・あたし達全員、幸せにしないと承知しないわよ。それこそ戦場で無茶して死んだりしたら、一生許してあげないんだから」


「・・・そうか。お前がそう思ってくれるなら、男冥利に尽きる話だ。それから心配などする必要は無い」


「「「!」」」


 信康は胸を叩いてそう断言すると、カルレア達は思わず両頬を赤く染めた。そんなカルレア達に、信康はある事を思い出した様にハッとした。


「おっと、忘れる所だった・・・贈物(プレゼント)があるんだが、受け取ってくれないか?」


「贈物?・・・もう、別に気にしなくても良いのに。良いわよ。何をくれるのかしら?」


 キャロルは信康から贈物を貰えると知って一度面食らったが、次に何をくれるのかとワクワクした様子を見せた。それはカルレアとセーラも、キャロルと同様であった。


 信康は虚空の指環(ヴォイド・リング)を装着すると、カルレア達への贈物を取り出し、それを首に優しく掛け始めた。それを終えると、満足そうに信康は頷いた。


「・・・うん。やはりよく似合っている。買って来て正解だったな」


「「「・・・」」」


 満足している信康とは裏腹に、カルレア達は呆然としていた。手を震わせながら、首に掛けられた信康の贈物を撫でたり触れたりして凝視していた。


「あ、あの・・・ノブヤスさん、これって・・・」


「ん?・・・あれっ? 気に入らなかったか?」


「違うわよっ!? こ、こんなものっ! 何処で買って来たのさっ!?」


 キャロルが動揺したまま、信康に贈物に付いて尋ねた。カルレア達の首に掛けられたのは、プリンセスネックレスと呼ばれる種類の首飾りだ。金具は全て純金で出来ており、それぞれ大き目の宝石が付けられている。大きさは二十カラット以上ありカルレアのは翠玉石、キャロルのは蒼玉石、セーラのは紅玉石であった。


「当然、宝飾店だが?・・・行く機会があってな。一目見て、お前等に似合うと思ったんだ。だから他の奴等に買われる前に、即金で買ったんだよ」


「い、幾ら位したんですかっ・・・?」


「幾らだったかな?・・・まぁ言う程、高い買い物でも無かったぞ。何せそれ一つで白金貨三枚前後。全部合わせたら、白金貨十枚出して御釣りが来る程度だ。そう聞くと、結構安く感じてしまうんじゃないか?」


 信康が何でも無い様にそう言ったが、カルレア達は気が気では無かった。


 キャロルとセーラの実家は裕福だが、過度な贅沢を好まないので白金貨の存在は大きい。カルレアもこのアパートメントを今は亡き夫と購入した際の、一度しか縁が無い代物だった。因みにこの宝飾店には、アリスフィールと一緒に行った際に入店している。桃色の金剛石と言う非常に珍しい宝石を仕入れていたので、アリスフィールには首飾りとして贈呈している。当然、アリスフィールは信康からこの贈呈品を贈られて非常に喜んでいた。


「・・・うーん、やはりもっと高い宝石が良かったか?」


「いえ、違いますっ!・・・キャロルさんも言いましたけど、はっきり言って恐れ多いですよ」


 カルレアが漸くそう口にすると、キャロルもセーラもうんうんと首肯した。そんな三人を見て、信康は面白そうに笑った。


「あはははははははっ! 気にしなくても良いんだよ。好きな女達に良い物を贈る位の、財力ならあるんだ。恰好くらい付けさせてくれよ」


「・・・分かりました。ありがたく、頂きますわ。でも本当に恐れ多いから、今後はしなくて良いですからね」


「分かった。今後は別の物を送らせて貰う・・・次からは気を付けるとしよう」


 信康がそう言ったので、カルレア達は安堵の溜息を吐いた。このカルレア達の様子を見て、信康は女性によっては贈物も高ければ良い訳では無いのだなと学習した。


 しかし、気に入っていない訳では無い様であった。信康に贈られたプリンセスネックレスを外して、うっとりとしながら見ていたからだ。


 やはり女性なので、宝石は好きなのは間違い無かった。尤も、今後は宝石を購入する時はカルレア達と逢瀬で一緒に宝飾店にでも行った時だなと、同時に信康は思った。


「おぅい、そろそろ行きましょうよ。早く行かないと、日が暮れて夜になるわよっ!」


 ティファがそう声をあげると、信康は返事代わりに手を振る。


「それじゃあ、俺達は行かせてもらうぜ」


「お元気で」


「身体には気を付けなよ」


 セーラ達がそう言った後に、カルレアが信康の手を握る。そして信康の耳元に顔を近付けて、そっと囁く。


「偶には遊びに来て下さいね。色々と準備しておきますから」


 カルレアからそう囁かれて、信康は微笑んだ


「・・・・・・やれやれ。手を出した時は、こんな女とは思わなかったぞ」


「眠っていた情欲に火を着けたのは、貴方ですよ」


「はっはは、そうだったな・・・暇な時は顔を出すようにしておく。浮気でもされたら敵わないからな」


「ふっふふ。もう浮気しているのに、これ以上したら流石に主人も怒るでしょうね」


「じゃあ、またな」


 そう言って信康は手を振って、その場を去った。信康の後に続くティファ。ルノワはカルレア達にペコリと頭を下げてから、信康の後に付いて行った。


 カルレア達は信康達が見えなくなるまで、手を振って信康達を見送った。信康がカルレア達に贈物として渡されたプリンセスネックレスに付けられている宝石が、夕日に当たってキラッと煌めいていた。

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