第84話
信康はセーラと共に夕食を作り、リビングで楽しく夕食をしていた。因みにルノワとティファは、先に食事を済ませている。
「そうですか。このアパートを出るのですか・・・少し寂しくなりますね」
「まぁ、時間を見つけてちょくちょく顔を出すから心配するな」
信康は安心させる様にそう述べた。
「それよりも、お前に頼みたい事がある」
「はい? 私に?」
「うん。実はな」
信康はセーラに話した。
「流石に、それは!?」
「無理は重々承知で、其処を何とか曲げて頼む。全部俺がやるから、セーラは俺から聞かれた事だけを答えてくれたら良い」
信康が珍しく頼み込むので、セーラは考える。
「・・・・・・・・・ちゃんとキャロルの事も、大切にしてくれますか?」
「それは勿論だ」
「・・・・・・分かりました」
信康はそう言ったセーラの頭を抱いて、自分の胸に引き寄せた。
「・・・・・・こんな事されても、別に嬉しくはないですからね」
「なら、何をしたら喜ぶ?」
「・・・・・・意地悪な人。もう、分かっているのに」
「悪いな、性分だ」
信康はセーラの頭を撫でた後、優しく口づけを行う。するとセーラは、嬉しそうに両頬を赤く染めて顔を緩ませる。
「・・・・・・あたし等の前でイチャコラするとか、良い度胸だねぇ」
「えっと、微笑ましいと思いますよ?」
ティファ達に声を聞いて、セーラは顔を赤くして信康から離れた。
「おいおい、あまり揶揄うなよ」
「人の男が他の女とイチャついているのだから、これくらい言っても良いだろう」
ティファがジト目で信康を見る。
しかし信康は、平然としていた。
「ったく、平然としやがって」
「ふっふふ、ノブヤス様らしいですね」
頭を掻くティファを尻目に、信康は席を立つ。
「さて、善は急げと言うからな。俺は早速、準備をして来るとしよう。セーラ、鍵は借りるぞ」
信康はそう言って、部屋を出た。
「ふぅっ、さっぱりした・・・・・・」
信康とカルレアの情交を意図せず覗いてしまったキャロルは、逃げ込む様に部屋に戻って浴室に入り、浴室から上がって身体を拭いていた。脳裏からその光景を追い出そうと浴室に入っていたキャロルだったが、未だにその光景がこびり付いていた。
(大家さん・・・漸く旦那さんの事が吹っ切れたのかしら?・・・それだったら、素直に喜べるんだけど)
キャロルとてカルレアの前夫が二年前に起こったカロキア公国との戦争で、帰らぬ人になってしまったと言う悲劇を知っている。二年経って漸く、新しい恋に目覚める事が出来たのならばそれはキャロルにとっても祝福すべき事であった。しかし、肝心の相手に問題があった。
(ノブヤス君がセーラとも関係があるって事を、大家さんは知っているのかな?・・・いや、セーラだってノブヤス君と大家さんの関係を知らないかもしれないわね)
キャロルはそう考えると、カルレアとセーラと信康の間にあるこの関係が健全とは思えなくなった。
「・・・やっぱりあんな関係は、いけないと思うわっ!」
(今度ノブヤス君に会って、ちゃんと言ってあげなきゃ駄目ねっ!!)
キャロルは何故か自分が信康を正さなければならないという使命感を覚え、何時か時間を作って信康と話し合いに行こうと勝手に決意していた。そんなキャロル自身も信康に狙われている事実を知らないまま、食材を保存している冷蔵庫から、飲み物を取り出した。
共同で飲める物ではなく、個人用に買った飲み物だ。ちゃんとキャロル専用と書かれた紙が掛けられている。蓋を開けて、コップに中身の液体を注ぐ。この飲み物は酒ではなく、炭酸ガスが入った果実水だ。スッキリとした甘みなので、キャロルは好きであった。コップに注がれて、一気に飲み干して一息を着いた。
「ん? 何か、炭酸が抜けている気がする」
飲んでみて違和感を感じたキャロル。
セーラはこの炭酸の風味が好きではないので、どんなに薦めても飲まない。
なので、自分しか飲まないから気の所為だと思った。
ちびちびとコップに注いで飲んでいると。
「んっ・・・・・・・・・・」
突然、身体が火照りだした。
(・・・あんな光景を見たから、身体が知らず知らずの内に火照ってしまったかしら?)
前戯しかしていない場面だけとは言え、生まれて初めて直接目の当たりにした情交の光景である。
身体が火照っている理由は、信康とカルレアの情交にあると思ったキャロル。
(・・・発散させないと、眠れそうに無いわね)
キャロルは就寝に就く前に、身体の火照りを発散させる事を決めた。
部屋に戻ってから色々あったので、気付かなかったキャロル。
リビングのテーブルの上には、見慣れない水晶を飾った置物がある事に。
そして、その水晶が輝いている事に。




